ソーシャルメディアとマーケティング

2016年4月16日
千葉商科大学経済研究所 所長 橋本 隆子

日本のインターネット人口は1億人を超え、国民の8割以上がPCやスマートフォン、携帯などの何らかの情報端末を利用していると言われている[1]。「不特定多数の人々が参加できる、双方向コミュニケーションメディア」であるソーシャルメディアも広く浸透し、日本国内のFacebookユーザ数は2400万人[2]、Twitterユーザ数も2000万人[3]を超えるとの調査もある。ソーシャルメディアにおいては、人々が公開の場で自由に書き込んだ意見が、ある種のコンセンサスとして醸成されて、「クチコミ」として広がっていくという傾向がある。実際に、「何らかの商品・サービスを購入する前にネットから情報を収集する」人は8割超、購入時に「クチコミを参考にして購入を決める」人は全体の4割を占め[4]、今やソーシャルメディアは、商品・ブランドのマーケティングにおいて無視することの出来ない情報源となっている。ここでは、ソーシャルメディアとマーケティングの関係について述べていきたい。

ソーシャルメディア上のクチコミには以下のような特徴があると考えられている[4]

  1. (1)クチコミは残り、あとから参照される
    口頭のクチコミの場合、その場にいなければ聞くことはできないが、ソーシャルメディアのクチコミは通常、テキスト情報で交換され、その情報はサイト上に残される。削除されないかぎり、後から見ることができ、それがソーシャルメディア上のコンセンサス醸成に大きな役割を果たしている。
  2. (2)知らない同士のコミュニケーション
    口頭のクチコミの場合、目の前で話している相手が誰であるかを認識できるが、ソーシャルメディアのコミュニケーション相手は殆どの場合、不特定多数の見知らぬ相手である。
  3. (3)拡散される
    ソーシャルメディア上のクチコミは、時に想像を超えた規模感、スピードで拡散される。特にネガティブなクチコミほど早く拡散される傾向がある。

近年、ソーシャルメディア上のクチコミを、商品のキャンペーン効果測定やブランドイメージ調査といったマーケティングへ活用する試みが盛んに行われている。たとえば商品のキャンペーン効果測定の場合、該当する商品名を含むTwitterのTweetsの数を測定し、その時系列変化や関連語(商品名と共起する単語)解析を行う。関連語が「大好き」、「美味しい」、「良かった」といったような商品開発者の期待に沿う単語であるかどうかなどを判定することで、キャンペーンへの反応を把握し、その有効性を評価する。競合製品イメージ比較の場合は、自社製品名を含むTweetsと他社製品名を含むTweetsのTweets数、時系列変化、関連語、さらにポジティブなクチコミが多いか、ネガティブなクチコミが多いかなど、さまざまな観点から比較する。夏の時期にTweets数が多い製品であるといったことがわかれば、それらの製品は夏によく利用されているだろうと推定できる。製品ごとの関連語を通じて、それらが利用されている場面(例:体調が悪い時、寝起きの時など)を知ることが可能となる。一般的な製品のみならず、渋谷や新宿といった都市の比較、MacとWindowsといったソフトウェア環境の競合比較なども行うことができる。これらの解析を通じて、自社製品の強みを知り、他社製品との違いや改善すべき点などを把握し、マーケティングに活用していくことが可能となる。近年、ソーシャルメディアのクチコミを解析する商用サービスも積極的に展開されており、多くの企業がこうしたサービスを通じて、自社製品のマーケティングに必要な情報を得ている。

ソーシャルメディアのクチコミ解析には、さまざまな情報技術が用いられている。そもそもクチコミデータは大規模データであり、ビッグデータを解析できる技術が必要となる。瞬時に特定のキーワードを含むTweets数をカウントするなど、高速な検索技術も用いられている。さらに言語成分分析、定性評価、評判分析、テキストマイニング、話題抽出といった各種データマイニング技術も適用されている。昨今話題となっている人工知能技術も活用されている。こうしたさまざまな技術はまだまだ発展途上であり、今後さらなる技術革新が望まれている。その意味でソーシャルメディア上のクチコミ解析は最新の研究成果をすぐにビジネス活用できる分野とも言える。ソーシャルメディア上のクチコミは、日々、リアルタイムに更新される大規模データであり、人々の生の声が蓄積される貴重な情報源である。ソーシャルメディア上のクチコミのビジネス活用は、ますます盛んになっていくと考えられる。技術面、応用面でのさらなる発展を期待したい。

参考文献

[1] 総務省、情報通信白書平成26年版
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/h26.html
[2] 株式会社セレージャテクノロジー、アジア各国のFacebook推定ユーザ数
http://www.cereja.co.jp/press_release20150323.pdf
[3] eMarketer, Asia-Pacific Grabs Largest Twitter User Share Worldwide
http://www.emarketer.com/Article/Asia-Pacific-Grabs-Largest-Twitter-User-Share-Worldwide/1010905
[4] NTTレゾナント株式会社、「購買行動におけるクチコミの影響」に関する調査
http://research.nttcoms.com/database/data/001436/

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