IoTと経営

2015年4月23日
千葉商科大学経済研究所 所長 上山 俊幸

最近、新聞や雑誌で「IoT」という用語をよく目にするようになった。もちろん、Internet of Things(モノのインターネット)のことであり、単純化していえば、様々なモノをインターネットにつないで情報をやりとりしようということであるが、少し前までは「ユビキタス」という言葉がよく使われ、また「ユビキタス社会」といった用語も使われていた。IoTとユビキタスという2つの用語は目的やニュアンスが異なるが、細かいことに目をつぶれば、取りあえず同じようなものと考えてよいだろう。ちなみに、新しい言葉を使い始めれば、関連する業界では商売にも好影響を及ぼす場合もある。

さて、このIoTであるが、経済産業省でも議論されていて、報告もなされているのでWebで現在どのような議論がなされているのかを知ることもできる。IoTの事例として一番露出度が高いのは、何といっても株式会社小松製作所が自社製品の建設機械から遠隔でデータを収集して管理し、さらには省エネ運転への改善指導までを視野に入れて構築した機械稼働管理システムである「KOMTRAX」であろう。

同じアナロジーとしては、インターネットが急速に普及していく少し前の1990年頃に、日本コカ・コーラの各ボトラーが、自動販売機の商品補充作業を「1往復オペレーション方式」にしてルートセールスでの商品補充の効率化を図るために自動販売機から無線や電話回線を通して在庫状況データを収集する実験を開始し、その後導入していた。したがって、これまでも遠隔でデータを集めて業務を効率化しようという事例はあったといえるのだが、現在ではそれを比較的容易に,しかも安価に実現する手段を手に入れたといえる。

さらに、現在はIoTでデータが収集した後の処理として、いわゆるビッグデータからAI(人工知能)を使って情報や知識を生み出そうという取り組みが行われている。

1990年頃にもAIの研究が盛んだった時期があるが、当時は人間側がコンピュータにファクト(データ)とルールを記憶させて、推論を行うというルールベースの人工知能研究が中心であった。筆者も経営コンサルティングの経験から得た知識を移植したコンサルティングを行えるエキスパートシステムの試作を行っていたときがある。しかし、いまのAIはコンピュータが、自己学習を行えるという面で当時とは全く違ったものになっている。コンピュータによる知識の自己増殖時代の幕開けといっても良いのかもしれない。IoT、ビッグデータ、機械学習がセットになって進んでいくという面もある。

ここでは、その議論とは別に経営に関して考えてみたい。もちろん、IoT、ビッグデータ、機械学習のセットでの発展は重要であるが、基本に返って経営やビジネスを考えてみようようということである。

一般的には、新しい制度が導入されたり、制度が変更されたりすると新たにビジネスチャンスが生まれることがある。このたびのマイナンバー制度の導入は、大きなビジネスチャンスでもある。しかし、そのような時期を決めて新しい制度を施行するという明示的な変化ではなく、じわじわと変化が起きているときは、なかなかそれに気がつかなかったり、あるいは日本企業に多いのであるが気がついてもやり過ごしてしまったりすることもある。当然、その場合は経営的にはハンデを負うことが多い。IoTに関していえば、いまに述べたようにすでに広く知られているので、今からでは流れに乗り遅れたという感覚があるが、それでもいまから取り組む必要がある企業もあるだろう。

IoTを自社の商品やサービスを開発することの関係で考えるとどうなるであろうか。まず、IoTを大きく分類してみると、IoTによるデータ収集を重視するケース、それとは反対にデータ配信を重視するケース、そしてそれらの両方を行うケースがある。データ収集を重視するケースとしては、人が巡回するには無理がある鉄道の線路近傍における気象状況をモニタリングするシステムや工場の生産ラインから製造環境条件データを集めるシステムなどがある。データ配信を重視するケースとしては、分散した組み込みシステムに更新プログラムを配信するシステムやデジタルサイネージのデータを配信するシステムなどがある。また、両方を行うケースとしては、自動車各社が手がける、道路状況データの収集・配信や運転操作に関わる(ブレーキの多用箇所など)データ収集・配信のシステムなどがある。

このようなIoTの事例を収集し、アナロジーとして自社の技術やサービスを組み合わせられないかを検討することが必要であるし、実際そのような取り組みをしている企業もあるだろう。IoTという手段から、商品やサービスを開発するということに関しては、消費者や顧客のニーズを把握することが始めに来るべきであって、シーズからのアプローチは主客転倒であるという主張があるかもしれない。しかし、それも一つの考え方ではあるが、それさえも古いという意見もある。これまでの研究、あるいは私たちの経験からでも容易に理解できることであるが、顧客インサイトあるいは消費者インサイトを考えた場合、そもそも顧客や消費者自身が自分のニーズが分からないという側面があり、シーズからのアプローチも一つの有効な手段としてとらえるべきだろう。

今後は、先に述べた、機械学習の進歩が予想されるので、IoT、ビッグデータ、機械学習のセットの活用も同様にビジネスのシーズとして射程に入れたい。

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