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持続的発展可能な地方都市造り
国府台経済研究第19巻第2号[2008-3-31発行]
「21世紀地方都市再開発」研究チーム代表
影山 僖一
はじめに:研究活動の概要
1.研究活動の目標とその成果
20世紀には、自動車産業を中心とする製造業の発展を背景として、近代の工業都市開発が急速に進展した。しかし、工業発展を背景とする都市造りには大きな問題が発生している。産業の発展とともに、人間の働く機会は拡大したものの、モータリゼーションに伴う公害、交通事故、交通混雑、ストレスの強まりなど人間の生活する居住空間としての都市環境の劣化は避けられなかった。都市化のプロセスにおいては、多くの住民の住環境が破壊されたとされている。そうしたなかでは、自然環境を保護して住民の住環境を守りながら、雇用機会を確保しつつ、しかも市民の意向を十分に反映して、住民の利益と両立した都市造りを目指す新たな提案が求められていた。いわば、自然を保護しつつ、公共交通などの進展による無公害であって、緊張感とストレスとは無縁の持続的発展可能な都市造りが要請されているのである。
本研究は、そうした自然保護と住環境の改善に向けて住民との合意形成をもとに快適な都市造りを目指して都市再開発の実態を研究し、今後の参考に供することを目指して平成17年度より2年間にわたり取り組まれてきた。その間、都市開発の専門家より、住環境の整備に向けた重点事項に関する事情聴取を行い、また、わが国地方都市において特有の都市開発活動を行っている地方都市開発に従事する行政当局者などからの報告を聴取した。また、新たなタイプの都市開発学の研究活動に従事してきた新興大学であるオックスフォード・ブルックス大学のジェンクス教授よりイギリスの街造りの体験と発想に関するヒアリングを行なった。さらに、研究活動に際しては、未来都市としてのアメリカのシリコンバレーの他に、ヨーロッパのサイエンス・パークの研究を行ない、未来の理想都市としてスウェーデンのキスタ・サイエンス・シティを一つの理想的な都市として推奨した。キスタ・サイエンス・シティにおけるコンパクトで機能的な都市造りと都市内での雇用機会の拡大、さらには、全員参加の合意形成方式などの直接民主主義に向けた努力に地方都市造りの活路を見い出だし、そうした理想的都市造りの方式に関する提案を行なうこととした。そこでは、自然保護、知識産業を基盤とした雇用機会の拡大と産業と大学の連携による高度に機能的なコンパクトシティを理想的な街造りとして提案した。多くの研究成果に基づいて、研究活動の最終段階では、キスタ・サイエンス・シティを一つの理想とする地方都市造りの提案を第一部では行った。本特集号には研究調査の結果を研究に従事した全員の総意として取りまとめた成果を第一部に発表している。そこでは、持続可能なより良い地方都市造りに向けた新たな具体的な提案を行った。
本調査は、2年間に10回の研究報告会を開催し、現地実態調査を7回実施した。さらには、イギリスでの都市造りに関する実態調査も行なった。そこで、第二部においては、研究報告会における講師の報告要旨を紹介し、さらに、地方調査の結果とイギリスにおける実態調査の記録を紹介することとした。研究報告会での報告要旨ならびに収集したデータは、研究チームの提案に活用された。ご高覧を賜り、ご意見をお寄せ頂ければ幸いである。ここでは、外部機関から得た情報の成果を検証し、その要旨を紹介するものとする。
2.研究活動結果一覧表(平成17年-18年)
(1)研究報告会活動
第1回研究報告会
開催日:平成17年5月9日
テーマ:持続的な地域活性化と大学の役割
報告者:大宮 登氏(高崎経済大学地域政策学部学部長兼教授)
第2回研究報告会
開催日:平成17年7月8日
テーマ:持続的発展のためのコンパクトシティ形成への協働
報告者:樹下 明氏(東北文化学園大学教授)
第3回研究報告会
開催日:平成17年7月13日
テーマ:加茂川改修の記録:水害対策としての大規模換地実績
報告者:菊田真紀子氏(衆議院議員)
第4回研究報告会
開催日:平成18年1月30日
テーマ:都市再開発の方式:六本木ヒルズ建設を具体例として
報告者:高辻秀興氏(麗澤大学国際経済学部長兼教授)
第5回研究報告会
開催日:平成18年2月23日
テーマ:欧州における産業クラスター戦略:ライン河上流における越境地域連合の事例
報告者:税所哲郎氏(関東学院大学助教授)
第6回研究報告会
開催日:平成18年3月10日
テーマ:岩手県の地域振興
報告者:小苅米清弘氏(東洋大学名誉教授)
第7回研究報告会
開催日:平成18年5月29日
テーマ:持続的発展可能都市開発の構想と問題点:農村経営からのアプローチ
報告者:吉田俊幸氏(高崎経済大学大学院地域政策研究科委員長兼教授)
第8回研究報告会
開催日:平成18年6月14日
テーマ:中国のサイエンスパーク:その運営方針と組織
報告者:丹沢安治氏(中央大学総合政策学部教授)
第9回研究報告会
開催日:平成18年7月3日
テーマ:高度情報化時代と討議型民主制
報告者:坂野達郎氏(東京工業大学助教授)
第10回研究報告会
開催日:平成18年7月19日
テーマ:欧州環境都市のヒューマンウェア:持続可能な社会を創る複合「知」
報告者:大橋照枝氏(麗澤大学国際経済学部教授)
(2)専門家に対するインタヴュー調査
第1回:我孫子市行政企画担当者との懇談(面談日:平成18年2月22日)
第2回:長野県箕輪町町長との面談(面談日:平成18年3月15日)
第3回:福島県矢祭町町長との面談(面談日:平成18年3月17日)
第4回:「文化を創るまち」小出郷のエリア・プランディング(面談日:平成18年4月12日)
第5回:都市再開発に際しての合意形成方式(面談日:平成18年4月19日)
第6回:加茂川市洪水と換地による街造り(面談日:平成18年9月7日)
第7回:新潟県糸魚川市役所関係者との懇談(面談日:平成19年3月2日)
(3)イギリス産業実態調査
(ⅰ)訪英スケジュール
出発:2006年10月31日(火)12:00/成田空港発(JAL401便)
~10月31日(火)16:00/ロンドン・ヒースロー空港着
調査活動日時:2006年11月1日(水)~11月3日(金)
帰国:2006年11月4日(土)19:00/ロンドン、ヒースロー空港発(JAL402便)
~11月5日(日)16:00成田着、帰国
(ⅱ)イギリスにおける実態調査活動スケジュール
(ア)2006年11月1日(水):13:30 DMUK訪問
@大量生産方式の製造工程見学、イギリスに対する日本の技術移転実態調査
(イ)2006年11月2日(木):13:30 KOSO Kent Introl訪問
@受注生産方式の製造工程見学、業界内競争と低迷する技術革新の実態調査
(ウ)2006年11月3日(金):13:00 Jenks名誉教授(オックスフォード・ブルックス大学)との意見交換
@イギリスにおける新たな都市造り計画提案
3.研究活動成果紹介
本プロジェクトでは、2年間に10回にわたる研究報告会を開催し、内外の専門家による街造りに関する報告を聞いた。また、地方都市の行政担当者などの関係者を訪問してヒアリングを行った。さらに、イギリスの製造業実態調査ならびに大学関係者との懇談の機会を持った。そうした実態調査の記録は本報告書の第二部において紹介されている。ここでは、研究報告会、地方調査、イギリス実態調査の中で、参考となった諸点を影山僖一が要約して紹介するものとする。
(1)研究報告会の重点事項紹介
研究報告会で聴取した講師の解説では、特に以下の諸点が参考となった。
(ⅰ)環境保全、省エネルギ-とコンパクトシテイ
地球環境と自然の保全に対する配慮を欠き、エネルギ-源の保全に注意を怠って推進されてきた20世紀における製造業の発展は、現在の地球温暖化とエネルギ-価格高騰を招く元凶となった。地球環境の保全と省エネルギ-という前提にたったコンパクトな都市造りという発想は今後の産業発展と都市形成の前提条件となる。20世紀における物質文明の前提をなしたクルマの効用とは裏腹に環境汚染、人命剥奪、道路独占、ストレスの原因としての自動車輸送の削減を提唱された樹下報告は印象的であった。なお、本プロジェクトでは、樹下氏の報告は一回だけであったが、その後、同氏は、計画行政学会、本学大学院政策研究科博士課程(産業政策論グループ)において、関連事項について数回の報告をされておられる。そこで.本特集号には、関連の学会報告の要旨を踏まえて30数頁もの玉稿を提出して頂いた。樹下氏の報告では地球環境保護、省エネルギ-によるコンパクトシティ形成という提案がなされ、参考となるところが多かった。平素の樹下明氏の活躍に対して敬意を表しご協力に謝意を伝えたい。
(ⅱ)ヨーロッパにおけるサイエンスパークと情報集積効果
本報告の第一部:「持続的発展可能な地方都市造り」では、理想的な街造りの見本として、ストックホルム(スウェーデン)近郊のキスタ・サイエンス・シティを一つの典型として指摘しておいた。そうした超近代都市形成の前提条件は、自然環境の保護、情報通信産業の育成、コンパクト性と限定された地域における高度な近代的都市機能の集積と発展にある。超近代的な都市建設を推進してきたヨーロッパの社会構造と都市造りの発想は、今後の街造りに大きな参考となる。今後のわが国都市造りに是非とも取り入れたいと考えられる。本プロジェクトでは、税所哲郎氏よりライン河上流地域における越境地域連合のバイオ・ヴァレ-の実態を聞き、近隣の他のサイエンスパークとの緊密なネットワーク形成の実態に関する紹介を頂いた。さらに、大橋照枝氏より、欧州の環境を重視した街造りに際しての住民の価値観の同一化、ライフスタイルの改善などに向けたヒューマンウェアの整備に関して紹介を頂いた。さらに、近隣の産業との有機的な結合関係のなかで活動してきた中国のサイエンスパークの特色を指摘した丹沢安治氏の業績も注目に値する。三氏の報告は、第一部:「持続的発展可能な地方都市造り」の作成に際して大きな参考となった。
(ⅲ)都市造りに向けた全員参加の合意形成方式
街造りの前提条件としては、住民間の合意形成が最も重要とされるが、そうした課題に関しては、当該分野に精通しておられる二人の専門家の方々より報告を賜った。
(ア)六本木ヒルズ
六本木ヒルズなどの建設に向けて施工者は、工事着工前20年以前から、土地所有者に対する理解を求める努力をしてきた。そうした新たな街造りに際しての合意形成方式に関する努力の具体例を紹介しつつ、都市建設に際しての住民合意形成に関する報告をされた高辻秀興氏の報告は超近代都市建設過程に関する研究に際して大変に参考となった。
(イ)討議型民主制と報告要旨
従来の代議制は民意を正確には反映しないとされている。近代の民主主義の欠陥が指摘されてからすでに長い年月が経過した。近代社会は、国民のごく一部にすぎない官僚やオピニオンリーダーが自己の利益のために民意を自己都合で誘導するなどして、歪められた形での意思決定が行われてきた。民意をできるだけ正確に反映した意思決定を行うための一つの方法として、討議型民主主義に移行することが望ましいとされているが、そうした方式を都市造りに活用しようとして研究を進めてきたのが坂野達郎氏である。同氏からは、討議型民主主義の推進方式に関する実験結果の説明を受けた。
(a)住民から数段階に別けて意見を聴取するさいに、特定の作為的な質問を避け、真実の民意を反映する方式を選択する。専門家による中立的な意見を聞く機会も設定するものとするが、しかし、そうした専門家の説明によっても、当初の住民の意見を変更することは困難であるという報告があった。さらに、多くの人種の討論の過程では、特定の人種(白人男性)による他の参加者に対する説得と誘導活動が顕著であるとの指摘があった。
(b)二か国における緊急問題に関して市民の対話を試み合意に到達する事を目指した実験結果が紹介された。そこでは、専門家を交えた討論が重ねられたが、しかし、その成果は合意形成という目的からみて必ずしも積極的なものではなかった。討議方式の改善により今後新たな成果の得られる可能性はあるが、これまでの実験では、必ずしも全員の合意が得られる可能性は大きくはない。専門家の意見も市民の意見に大きく影響して市民全体の合意形成に向かうとは限らないことが判明した。
(ⅳ)特定地域の産業との都市造りとの関連性指摘
都市は、住環境の提供、職場、娯楽休養の場としての三つの大きな役割を果たしてきたが、産業革命以来、とくに雇用、働く場としての役割が極めて大きな機能を果たすに到った。働く機会を求めて、雇用吸収力の高い大都市に人口は密集することとなる。さらに、そうした雇用機会拡大の準備の一環として教育を受けるために大都市とその近郊に学生が集まることとなる。今日の東京一極集中傾向をみれば、雇用機会の拡大と教育施設の存在が都市形成の大きな要となることは明らかである。雇用機会を作るのは産業であるが、産業の性格を極めることが都市の性格を研究する上に大きな役割を果たす。農村における製造業ならびに農業育成と都市造りに関しては三人の専門家の方々に貴重な報告を頂いた。
(ア)農業と共存する製造業
工業、農業、大学都市など都市の性格を決定する産業の構造と性格を検定することも都市問題の研究には不可欠となる。そうした意味で、大都市からはやや距離があり、農業、牧畜中心に都市造りを進めながら、30年ほど前から、特別地域に工業都市を建設しつつある岩手県の産業の特色と街造りの動向は全国でも注目の的となってきた。
そこで、岩手県の産業振興の特色を探求して、その特異な産業育成と街造りの試みと行政の対応につき過去数年間にわたり研究された小苅米清弘氏の業績が注目される。岩手県は、広い面積の中に多くの都市を有してその産業も鉄鋼、機械、独特の鍋釜造りから、農産物、牧畜、観光と多彩である。多くの機関を訪問された同氏のご苦労が推察される。そうした中での県による地域産業振興政策の方向も注目される。日本を中心に地域の街造り、地域興しの方法に関して独特の研究を進め、地域再生に努力されている当該分野の専門家である関満博氏による岩手県の街造りに関する報告もあるが、同氏の業績は、必ずしも岩手県の街造りに関する十分な業績とはみられず、小苅米氏の研究成果は関氏のすぐれた研究成果をさらにこまかいところで補足する貴重な業績と判断されるもので、本報告作成にさいして参考となるところが少なくなかった。
そうした意味では、地域の都市造りに積極的に協力して成果をあげてきた高崎市と高崎経済大学の高崎の街造りに対する協力の実態を紹介された大宮登氏の報告も参考となった。小苅米清弘氏ならびに大宮登氏の業績は、専門家である関氏の取り上げなかったキメの細かい分野の研究をされて本報告作成に際して参考となるところは少なくなかった。お二人のご活躍に心より敬意を表したい。
(イ)農業の再生による循環型社会構築
吉田俊幸氏は、農村での地域振興は21世紀型のモデルによるべきとして、その意義を公共事業依存体質から脱皮した新たな地方社会の振興策の方向にとどまらず、今後の経済社会変革の方向とビジネスモデルとの双方を示唆されている。同氏の具体的な提言は以下の諸点にある。すなわち、地元の地域資源を活用した農業振興策であり、農産物だけではなく農山村の多面的な機能を活かすこと、マーケティングを基礎とした高付加価値化や新たなコンセプトのもとで商品開発、消費者と生産者を最優先するため、直売システムの開発やインショップといった新たな流通システムを生み出し中間流通コストを削減するとともに生産と消費の距離を縮め、両者の共生を作り出していくという点にある。さらに、インショップや彩り産業などでも、農業、地域振興の担い手については、若中年層だけではなく高齢者、女性、新規参入者、定年帰農者などの多様な人材がそれぞれの能力を生かして参加している点である。
従来の農村では多くの農業従事者が農業の他に公共事業における賃労働収入に依存して生計をたて、農家の大半は兼業農家として存続している。今後、農村は本来の農業振興により、環境との共生を意図したバイオマス中心のクリーンな循環型社会として発展を追求する事が求められているとするのが吉田氏の独特の提言である。本報告書における農業振興の提案にさいして吉田氏の報告要旨は参考となるところが多かった。
(ⅴ)新潟県加茂市の水害対策と新街造り
信濃川の支流にすぎない新潟県の加茂川ではあるが、信濃川に合流する直前の加茂市の中心部において毎年氾濫を繰り返し住民生活を破壊してきた。とくに、昭和40年代には毎年水害が発生し大きな被害をもたらした。そこで、加茂市では河川の拡幅を行うと同時に、河川沿岸の住居を集団換地し新たな街造りを行い、全国の水害地域に対する大きな先例を残してきた。水害対策としての集団での換地事業は極めて特殊な実績である。特に例年災害に見舞われる新潟県のような都市の再生、都市造りの大きな参考例となっている。水害対策と集団換地に大きな功績を残した元新潟県会議員の菊田征治氏、その後継者である衆議院議員の菊田真紀子氏より水害対策としての新たな街造りの実績と現在の換地で構築された街の発展について説明を受け、本報告作成に際しては多大な参考となった。
なお、第1回より第6回までの研究報告会の成果は「持続的発展可能な都市造りの試み:調査第1年度の中間報告」(Research Paper Series. No.38. Oct.2006. )に掲載されている。本報告と同時に、リサーチ・ペーパー・シリーズ38号を参照して頂きたい。
(2)地方都市首長ならびに行政担当者に対するインタヴュー成果
本研究プロジェクトでは7回の実態調査を行い、報告書作成に際して大きな参考となった。特に地方都市の実態を見学して、都市機能の保全と強化に向けて重要な地方都市の努力を確認した。今回の地方都市の実態調査は、特に住民本位のサービス活動を優先して行政経費を削減してきた地方都市を訪問して、その成果を確認することとした。以下は、地方都市を訪問して担当者との懇談の結果を影山僖一がとりまとめた要旨である。
(ⅰ)住民本位の行政改革を進める地方都市
日本の行政組織は、国際比較によると、それ程大きな規模でなく公務員の人数は多くはなく先進諸国に比較してむしろ少ないとされている。しかし、給与水準が高く大きな財政上の負担をもたらす原因とされてきた。行政経費を削減することは、官僚組織の大きな責任となり、それにより住民の生活向上に充当し、国民を豊かにすることが官僚の義務とされている。街造りに際して、訪問先の地方自治体は行政改革と徹底的な行政経費の低減に努力しており、製造業を街の周辺に設置して住民の税金の引下げに努めている。
以下は、訪問先自治体の具体的な住民向けのサービス活動である。
(ア)住民に対するサービス活動と職員削減、給与引き下げ
(a)住民サービスの拡大と職員数の削減、行政改革
(b)公的サービスの充実
(c)工場誘致:多くの民間企業に対して立地を要請してきた。
(イ)高齢者優遇、少子化対策
町の人口を増やすために、以下のような措置を講じてきた。
(a)子供を生んだ両親に手厚い手当てを支給すること。
(b)妊婦に対する助成:健康診断補助金を支給すること。
(c)保育所に預ける料金を低額とすること。給食費の減額。
(d)外国人にとって住みやすい町とすること。
(ウ)官僚に対するこころがけの教育
(a)勤労に対する発想法の転換:あらゆることをできるだけ自分で行うことの教育役所の正職員はつらいことを他人に任せるという発想を捨て去り、臨時職員を雇わずに自分一人ですべての行政活動を処理する覚悟をもつことが肝要である。公務員は、これまで自分は楽をして他人に困難な仕事を委ねるということを慣例としてきた。
(b)公務員のほとんどは、役所に出勤した途端に、机の上での仕事だけに専心して厳しい仕事から逃れる。自分の家庭での仕事より遥かに困難な仕事に従事する習慣を確立することが求められている。
(c)職員の数を拡大すると、役人は住民に対する触れ合いから逃避する傾向がみられる。多くの職員がいることでわずかな人数の職員の怠惰な行動が気付かれにくい。
(ⅱ)市町村合併反対の理由
数年前には、日本政府は行政経費低減を目的として市町村合併を推進してきた。地方都市の行政担当分野である教育、福祉、医療という国民に向けたサービス活動とは異なる分野の単なる行政経費低減を意図した合併であったために、地方都市の活性化にはつながらなかったとみられる。単なる行政経費削減のための合併という措置に伴い、わが国の地方都市では、多くの混乱を招いている。
(ア)教育制度拡充と合併推進
明治時代にはわが国市町村数は7000余といわれたが、その後の整理統合の結果、現在の市町村は2000を下回る数に統合されてきた。その間の市町村合併は教育制度の改革と学区制度の改革にあった。小学校などを共通の地域に開設してそこに子供を通わせるという目的に向けた合併が明治時代と昭和初期に推進され、次世代の育成という名目のもとに合併が成果を挙げてきた。
(イ)中央政府による行政経費低減を理由とする合併の問題点
平成10年以降における市町村合併は、主として中央政府と地方自治体のこれまでの放漫財政の結果として生じた巨額の負債に対応しようとしたものであり、行政経費負担の軽減を意図したものであった。経済的、行政的な結び付きの強い市町村の合併には大きな利益があると考えられるが、それはごく一部の例外であり今回の補助金を「餌」とする市町村合併は、現在市町村の抱えている問題点を増幅するだけに終わる可能性が高かった。教育活動、福祉、医療サービスなどの地方特有の活動分野での協力関係の緊密化を目的として統合することで補完関係の高まる市町村の間では市町村合併は効果があると考えられるが、それ以外の目的で行われる合併は、住民に福祉に対して大きな問題を投じることとなる。それは、行政サービスの停滞を招き、今後の日本の地方行政と対住民サービスに大きな負担をかけるものとなる。
(ⅲ)訪問先担当者に対する謝意
今回訪問した多くの行政機関の首長ならびに面談担当の方々には、公務多忙の折りにもかかわらず、貴重な時間を割いて面談に対応して頂いた。厚くお礼を申し上げたい。
長野県箕輪町の町長、福島県矢祭町の町長には、3時間もの時間を割いて、本職との面談を頂き、感謝に堪えない。面談を通して、二人の首長による街に対するなみなみならぬ愛情と地域振興に向けた熱意を体感させられた。その厳しい責任感にも強い感動を受けた。リーダーというものの心掛けを教えて頂いた気がする。お二人ともに、民間企業のご出身であり、経費節減と対人サービスの徹底に向けて大きな配慮を感じることができた。
今回、首長には面談はできなかったが、担当課長と面談した千葉県我孫子市、新潟県加茂市における行政改革に向けた首長の努力には間接的に触れることができた。二つの都市もともに市町村合併には賛成せずに、独自の方法で行政経費削減と住民サービスを徹底している。地方都市のこうした懸命の努力には心より敬意を表するものてある。記録は影山僖一が担当しており、文章作成に関する責任は影山個人が負っていることを明記しておきたい。
(3)イギリス産業実態調査結果
イギリス現地における調査活動は、2006年10月1日より3日までの3日間、3か所を訪問した実態調査であった。極めて短期の現地調査であったにもかかわらず、日本にいては得られない貴重な情報を得ることができた。まず、オックスフォード・ブルックス大学の都市工学、都市経営学の権威との知己を得る機会に恵まれて、本報告書の目的とするイギリス都市工学の権威による都市造り研究の方向性を示唆された。オックスフォードブルックス大学は、イギリスの教育改革の実験校である専門学校から大学に昇格した代表的ケースであり、そのブルックス大学を選定して訪問したことの成果は絶大なものがあった。さらに、今回の石油精製装置ならびに自動車エンジン部品製造業に対する工場見学とインタヴュー調査は、影山僖一が日本学術振興会による支援で実施した1995年度より二年間のイギリス機械工業に対するインタヴュー調査のアフター・ケアとなるもので、日本企業による現地企業に対する経営技術移転の成果を観察する貴重な機会となった。ここに提示されたインタヴュー調査の結果は、過去数回にわたるイギリス企業訪問による研究成果を反映しているものであることを銘記していただけると幸いである。短期間ではあったが、イギリス実態調査は大きな収穫を得た研究旅行となった。
(ⅰ)イギリスの経済成長と技術革新の停滞
サッチャー政権の登場以前の1980年代までは、イギリス経済は停滞し、英国病という言葉が蔓延していた。しかるに、サッチャー政権によるビッグ・バン、公営企業の民営化、外国資本の優遇策などの一連の国際競争力の強化策により、英国経済は、1990年代以降急速な発展を遂げてきた。通貨であるポンドも、21世紀には1990年代に比較して大きく上昇している。イギリス経済の発展要因は、金融保険業、不動産業、教育産業などのサービス業の発展によるところが大きく、さらには北海原油の高騰などの英国の保有する経済資源の価格高騰によるものが中心を占めており、製造業の技術革新などによるものとはいえない。また、製造業における新規技術革新の基盤の強化という分野の評価は出来ない。イギリスでは教育改革に力が入れられ、従来の思考能力養成に向けた努力とポリテクから昇格した新規の大学学部の発展による世界各国からの学生誘致などの努力が功を奏してきたものともみられる。街造りなどの都市再開発は、徐々に新たな動きを見せており、近い将来、再開発の進展が期待されている。
(ⅱ)産業技術の停滞と今後の期待
受注生産の石油タンクなどの資本財機械の分野における研究開発などの成果についても十分な成果はみられない。大量生産方式の部品産業も外国よりの技術に多くを依存している。1990年代に自国の自発的技術革新といった経済発展の基盤造りに多くの実績がみられたとは判断出来ない。
(ⅲ)自動車産業における発展
1980年代までのイギリス自動車産業は、労働組合員の怠業と自動車部品産業における低い技術水準により停滞を続けてきた。しかし、1990年代には、日本の完成車企業がイギリスに工場の建設を行い、現地生産を開始したため、競争力の強化がみられたとされている。トヨタ、日産自動車、ホンダなどの現地生産に伴い、現地の部品工業に対する日本企業による経営技術移転が進展し、自動車産業に活気がみられたという。しかし、それは、1990年代における日本企業の現地への経営技術移転の成果によるもので、当初日本企業が期待していた現地における新車開発、技術革新イニシアチブの移転という段階には到達していないとされている。1980年以来、特に1990年代にイギリスの現地企業に対して行われたわが国自動車メーカーによる経営技術移転の成果は、その後に大きな進展はみられない。イギリスにおいて、エンジン関連の機能部品の製造を担当しているデンソーを訪問した聞き取り調査により、老大国イギリスの製造技術の日本方式の模倣は進展したが、開発活動には、いまだ大きな遅れがあるものと推測される。
(ⅳ)サッチャー政権の教育改革:地域別の大学間競争
イギリスでは1980年代からの教育改革が成果を挙げており、世界各国から大学生を誘致し、教育産業の繁栄がみられる。
約30年ほど以前のイギリスでは、ポリテクニクスという名称で呼ばれていた専門学校が各地に開設されていたが、ポリテクはサッチャー改革で大学に昇格して新境地を開拓した。大学に昇格して発展したケースの典型がオックスフォードのブルックス大学である。経営学部、工学部などサッチャーの推奨した分野の学部を開設し、それら学部は今や花形学部として全世界から18,000人もの学生を集めている。かつての花形大学である名門オックスフォード大学に隣接する新興大学として発展が著しい。学生数においてはすでにオックスフォード大学を凌駕している。ブルックス大学は、都市開発学、経営学など新しい分野の研究にも実績を挙げている。
(ⅴ)都市開発の停滞と不動産業者の取り扱い
ブルックス大学の担当者の話から判断すると、今後に予想される人口増加、都市部に人口の集中する可能性に対応して、イギリスの主要都市の再開発計画が推進されるという。また、公共交通に対するニーズの高まり、それに対応するための都市整備がなされる。しかし、都市開発を円滑に進展させるための私有権制限などの画期的な方式の開発は遅れており、さらに住民間の合意形成方式の開発も十分ではないように見受けられた。イギリスの都市開発は、自然と調和し、公害を出さない、自然環境と調和したものになっているが、しかし、新たな施設の建設の必要が生じた際の対応には柔軟さに欠けているとされる。そこで、今後の都市開発に残された課題は多い。また、開発の推進役としての不動産業者の取り扱いに苦慮している様子である。ただ、日本ほど簡単に土地取得の活動をさせずに、建設活動に取り掛かることに多くの制約を設けている。原則として、イギリスでは新たな建造物の建築は認められていない。
目次
はじめに:研究活動の概要.....影山 僖一
1.研究活動の目標とその成果
2.研究活動結果一覧表(平成17年-18年)
3.研究活動成果紹介
第1部 持続的発展可能な地方都市造り:高度情報産業、利便性と住環境改善、住民の直接参加
はしがき:地方都市造りの理想像
第1章:脱近代都市造りの提案.....影山 僖一
はじめに:近代産業発展と近代都市の限界
第1節:大量生産終焉と1990年代の経済環境変化
第2節:情報化時代のマーケティング戦略
第3節:農業活性化と自然保護事業拡大
第4節:都市開発に向けた市民参加
第5節:知識創造に向けた大学改革―産業発展に向けたビジネス・リーダー
第6節:産業集積と都市機能―キスタ・サイエンス・シティ
第7節:都市開発理論の要約―集積性
まとめ:地球環境保全、産学協同、農業振興による地方都市造り
第2章:地域イノベーション創出へ向けた中小企業の産学連携.....中山 健
プロフィール
第3章:情報に基づく取引の規制.....小杉 亮一朗
プロフィール
第4章:価値創造による地域ブランド構築.....菅野 佐織
第5章:糸魚川市における中心市街地活性化への取組み.....加藤 久明
提案:地方都市造りの理想像:地元住民の優先雇用、郷土保護.....影山 僖一、松田 茂
第2部 研究活動成果紹介(平成17年-18年)
1.研究報告会記録要旨
第1回研究報告会:持続的な地域活性化と大学の役割.....大宮 登
第2回研究報告会:持続的発展のためのコンパクトシティ形成への協働.....樹下 明
第3回研究報告会:加茂川改修の記録―水害対策としての大規模換地実績.....菊田 真紀子
第4回研究報告会:都市再開発の方式―六本木ヒルズの建設を具体例として.....高辻 秀興
第5回研究報告会:欧州における産業クラスター戦略―ライン河上流における越境地域連合の事例.....税所 哲郎
第6回研究報告会:岩手県の地域振興.....小苅米 清弘
第7回研究報告会:持続的発展可能都市開発の構想と問題点―農村経営からのアプローチ.....吉田 俊幸
第8回研究報告会:中国のサイエンスパーク―その運営方針と組織.....丹沢 安治
第9回研究報告会:高度情報化時代と討議型民主制.....坂野 達郎
第10回研究報告会:欧州環境都市のヒューマンウェア―持続可能な社会を創る複合「知」.....大橋 照枝
2.専門家に対するインタヴュー調査
第1回:我孫子市行政企画担当者との懇談
第2回:長野県箕輪町町長との面談
第3回:福島県矢祭町町長との面談
第4回:「文化を創るまち」小出郷のエリア・ブランディング
第5回:都市再開発に際しての合意形成方式
第6回:加茂川市洪水と換地による街造り
3.イギリス産業実態調査
(1)DMUK(英国デンソー)
(2)KOSO Kent Introl Ltd
(3)Jenks名誉教授(オックスフォード・ブルックス大学)との意見交換
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詳しくは、千葉商科大学経済研究所発刊『国府台経済研究第19巻第2号(2008年3月31日発行)』税込1,000円で配布しております。
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