• 公正な政策に求められる諸要件
  • 国府台経済研究第19巻第4号 [2008-3-31発行]
    代表 藤川 吉美
  • はしがき
  •  この著作は、千葉商科大学経済研究所における研究支援プロジェクト(2004年度~2006年度)の『公正な政策に求められる諸要件』―On some Requisitions for the Fair Policy―に関する研究の「報告書」である。
     まず、本研究プロジェクトを3年間にわたり財政的にサポートして頂いた千葉商科大学経済研究所に対して御礼を申し上げ、感謝の意を表さなければならない。ここに3年間の研究の成果をまとめて「報告書」としたい。
     この「プロジェクト研究」は、従来の専門分野の研究を超えた「政策問題」を扱うため研究体制も超領域的・グローバルな視点が必要不可欠とされた。それゆえ、歴史学、哲学、倫理学、法哲学、社会学、政治学、数理経済学、公共経済学、教育政策学、工学、医学、薬学、持続可能な経営学、などなど、分野横断的な多様な研究者が一堂に会して協力し、共通のテーマをめぐって研究に着手した。
     こうして2004年度~2006年度の3年間、さまざまな分野の各研究者や各研究協力者の研究発表から、個別科学が抱える諸問題の指摘とかケース・スターディーの研究分析から互いに刺激され、互いにヒントを得ることによって共通の課題「公正な政策に求められる諸要件」の分野横断的な探求と考察を試みることができた。そして、ここに、その成果をまとめた。これまで3年の長きにわたり多大なご協力を賜った研究スタッフならびに研究協力者各位に対し心から御礼を申し上げたい。
     この「報告書」の構成は、次のとおりである。
     まず、最初に、井関利明(元慶応義塾大学総合政策学部学部長、前千葉商科大学政策情報学部学部長、慶応義塾大学名誉教授、千葉商科大学大学院博士課程「政策研究科」客員教授)は慶応義塾大学総合政策学部および千葉商科大学政策情報学部の設立経験から、第1章の「政策情報学とソーシャル・マネジメント」について検討を加えた。
     次に、熊岡洋一(前千葉商科大学学長補佐、千葉商科大学政策情報学部教授、大学院博士課程「政策研究科」教授)は、グローバリズムの時代に相応しい歴史学の新しい枠組みの視点に立って第2章「世界システム論とグローバリズム」―近代世界システム概念の吟味―を担当し、政策問題を考える新たな歴史的枠組みの検討を試みる。
     次いで、加藤裕己(東京経済大学教授、(財)日本エネルギー経済研究所研究理事、千葉商科大学博士課程客員教授)は、市場の失敗から脱却する「公共経済学」の立場から、第3章「公共経済学の視点」および「原油価格上昇と日本経済」について考察を重ねる一方、当該理論の正当化の根拠に対して検討を加えた。
     次に、中村賢一((財)日本船員福利雇用促進センター常務理事、千葉商科大学大学院博士課程客員教授)は、数理経済学の視点から、第4章の「Bounded Rationality―消費者の合理性―」、「最適破産」、「地方分権と財政規律」、「法と信用(Law and Trust)―消費者の信用とは何か―」の諸問題について検討を試みる一方、そうした政策問題の正当化の科学的根拠について考察を試みている。
     次に、木曽功(文部科学省国際総括官ユネスコ第1係、千葉商科大学大学院博士課程客員教授)は、科学技術政策・高等教育政策の視点から、「日本における科学技術の基本計画」、「文部科学省の競争的資金、その拡充」、「研究上の不正に関する対応について」、「科学におけるミスコンダクトの現状と対策」、「主要各国における研究活動の不正行為への対応について」、「研究活動の不正行為に関する政策対応」など、多くの研究発表を頂いたが、この報告書では第5章「研究の公平性」について検討を加えた。
     次に、小澤俊康(万有製薬医療制度情報室シニアコンサルタント、千葉商科大学大学院博士課程)は、薬事行政・医薬政策の視点から慎重な検討を加え、第6章「医療保険における先発・後発医薬品議論」をテーマに、このデリケートな分野における公正な政策の要件について考察を試みている。
     次に、田村充代(千葉商科大学准教授)は、生命倫理の視点から、第7章「生命倫理諸法における政治的決定の合理性」について検討を加えた。途中から健康を害し療養に専念されたため執筆のお願いを躊躇ったが、当初の予定より短縮化された「報告書」を頂戴したので報告書に含めた。謝意を表したい。
     次に、服部忍(北川工業株式会社開発部特許管理担当、千葉商科大学大学院博士課程)は、公正な法システムの視点から第8章を担当し、「立憲的法システムと正義原理」の諸問題に検討を加える一方、新しい成果である「特許権の安定性に関する実証的検討」についても厳密な考察を試み、これも報告書に加えた。
     次に、周暁燕(総合政策研究所主任研究員、千葉商科大学非常勤講師)は、正義理論を中心とする社会哲学の視点から、第9章の「社会契約論における合意形成」について検討を加え完全合意へと導く「原初状態」の必要性、「不知のヴェール」と「マキシミン・ルール」の果たす役割について考察を試みた。
     次に、廣瀬忠一郎(キヤノン株式会社・環境企画部・環境経営戦略・担当部長)は、毎週の恒例研究会に参加し、企業の社会的責任を前提とした企業の持続可能な経営戦略の視点から、「企業のサスティナブル経済への戦略」について専門的視点から多くの示唆に富む発表をして頂いた。ご協力に感謝したい。
     最後に、藤川吉美(千葉商科大学大学院博士課程政策研究科・修士課程政策情報研究科・会計ファイナンス研究科客員教授他)は、全体的・総合的な視点から、第10章を担当し、「公正な政策の要件と合意形成」について考察を試み、社会の原点、社会的協力への移行に必要な理念と共通ルールの基本合意、公正な政策の要件、合意形成の根拠等について検討を加えた。

  • 目次
  • はしがき
    第 1 章 「政策情報学とソーシャル・マネジメント」.....井関 利明
          ―「コンテクストとしての学」と「学のなかの技法」―
    第 2 章 世界システム論とグローバリズム.....熊岡 洋一 プロフィール
          ―近代世界システム概念の吟味―
    第 3 章 公共経済学の視点.....加藤 裕己
          原油価格上昇と日本経済
    第 4 章 Bounded Rationality―消費者の合理性―.....中村 賢一
          最適破産
          地方分権と財政規律
          法と信用(Law and Trust)―消費者の信用とは何か?―
    第 5 章 研究の公平性について.....木曽 功
    第 6 章 医療保険における先発・後発医薬品議論について.....小澤 俊康
    第 7 章 生命倫理諸法における政治的決定の合理性.....田村 充代 プロフィール
    第 8 章 立憲的法システムと正義原理.....服部 忍
          特許権の安定性に関する実証的検討(知財高裁における特許無効判断)
    第 9 章 社会契約論における合意形成.....周 暁燕
    第10章 公正な政策の要件と合意形成.....藤川 吉美
    あとがき

  • リスクコミュニケーションによる市民の政策評価への参加プロセスモデルの設計研究
  • 国府台経済研究第19巻第5号 [2008-3-31発行]
    政策情報学部教授 熊田 禎宣
  • 論文概要
  •  この研究は、イ)合意が難しいとされる迷惑施設の計画をケーススタディの対象として、立場や役割の異なってこれまで接触の少なかった多くのステークホールダーが真剣に広範囲に持続的な相互学習を伴う学習をしながら、主観的なリスクの認識と、評価、そして認識され評価された複合リスクへの対応行動を表明し、協働活動をプラニングするのに有効なリスクコミュニケーションのプロセスを考案すること、ロ)異なったステークホールダーが効果的に協働活動を展開し、現在から未来にいたる社会のシステムのヴィジョンを相互に承認しあうユニバーサル・デザインの政策評価を達成する方法を創造すること、ハ)タイプの異なる地域社会でも適用可能なリスクコミュニケーション知識創造をサポートできるメカニズムを考案し、「リスクコミュニケーションの知識の創造と伝達のセンター」の創造を多世代、多機関、多分野、多地域の協働で市民の手作りで着手する活動主体を起動させるメカニズムを提案することが研究の目的とし、研究題名を「リスクコミュニケーションによる市民の政策評価への参加プロセスモデルの設計」(Universal Design of Citizen Participation Process for Policy Assessment by Effective Riskcommunication)と定めて平成17年度と18年度の2年間にわたり、熊田が主査となり、平成17年度は熊田、宮崎、樹下の3名で、平成18年度は熊田、宮崎の協働研究の活動を展開し、政策研究科のドクター・キャンディデイトの吉田大悟氏の作業協力により実行したもので、報告は4名全員が協働して完成させたものである。
  • 研究の問題意識について述べるなら、
    1)わが国では、社会経済システムの再編を決定する統治機構の意思決定メカニズムは、残念なことに過去60年の長期にわたって本格的な見直しによって、国民のために対外的にも体内的にも進化論的に安定した戦略(Evolutionary Stable Strategy)を産出しつづけることが可能なように改造されなかったこと。
    2)意思決定メカニズムの機能の劣化は国会や官庁なdpの統治機構で著しい。その悪作用の及ぶ範囲は他の主体に比べると社会の多方面かつ長時間にわたるのできわめて大きい。劣化は、“無謬の行政によるパターナリズム”の幻想におぼれ、冷静に政策が現実に何を達成しえたのかについての評価を受け入れなかった官と民のもたれあいによる“甘え”から発生している。しかし、この甘えの連鎖を断てない原因をつくっているのは適切な業績評価を確立しようとしない研究者であること。
    3)そして、このような民意の政策への反映する活動、公共選択が機能不全になり、憲法の宣言する民主主義が実態のないスローガンと化したのは、政策評価の活動に本格的な市民参加が実現しなかったことによる、と考え、以下の8章構成で報告する研究をおこなった。

  • 1章「政策評価に素人が発言できるリスクコミュニケーションの科学論で政策への信頼確保」
  •  20世紀における最高の異文化リスクコミュニケーションの積み重ねであった地球環境に関するブルントランド委員会報告を例にとり「和して同ぜず」の対話の重要性を論じている。
  • 2章「市民の政策評価への不信を招く政策評価法の透明性の欠除」
  •  2002年に成立した通称「政策評価法」が国民に向いた透明性が欠けているため、「政策評価」とは“見せかけの評価”であり政府の“点取り”という不信を招いたことを述べる。
  • 3章「市民にプロメテテウス型の環境市民を演じてもらうための学術業績の評価」
  •  環境政策の評価に例をとり先見性のある環境市民づくりを使命とするべき研究者が自らの業績評価をないがしろにしていることを述べる。
  • 4章「リスクコミュニケーションの活用による科学知識創造がもたらす公共選択のモデルチェンジ」
  •  主観性や固有性を承認するリスクコミュニケーションを活用して市民参加を促進し、公共選択を向上させる方法を述べている。
  • 5章「リスクコミュニケーションの理念とそれを活用した意思決定プロセスの整備」
  •  公共選択にリスクコミュニケーションを活用している米国の研究を参照し、意思決定プロセスの再編方策を論じている。
  • 6章「市民の個性を輝かせるリスクコミュニケーションによる人材育成センターづくり」
  •  市民が自発的に自己の個性を活かすためにリスクコミュニケーションを学ぶ「塾」のデザインを示している。
  • 7章「リスクコミュニケーションの欠除によるコンプライアンス・プアにおかされた大学」
  •  人材育成に直接的な使命を持ち、組織の指導者や政治の指導者などを社会の提供している大学が、公私における「政策評価」の貧国の原発巣となっていることを述べ外部評価によりその弱点を克服することを述べている。
  • 8章「知的創造力を支える心づくり活動の再生:憲法改正による公共選択の再編」
  •  この研究で度々ふれてきたが、
    1)リスクコミュニケーションが不得意、
    2)政策評価への関心が鋭くない、
    3)未来世代の不幸の可能性に目をむけない、
  •  などは憲法改正という「公共選択の大仕事」を誰も体験していないことによる、として、日本再生のために憲法改正の国民的議論が不可欠である、としている。

  •  以上の各章の文章は、日本計画行政学会、日本地域学会、日本環境共生学会などの研究発表の論文、ワークショップの討論資料、シンポジウムの基調報告など、専門家との討論と評価を得ている。目次に、各章の「主たる著者名」を記しているが、著者として明示されていない協力者吉田大悟氏は、特に、2章、4章、6章で報告作成にも「共著者」となるのに十分な貢献をしていることを明記しておきたい。

  • 目次
  • 論文概要
    第1章 政策評価に素人が発言できるリスクコミュニケーションの科学論で政策への信頼確保.....熊田 禎宣
    第2章 市民の政策評価への不信を招く政策評価法の透明性の欠除.....宮崎 緑 プロフィール
    第3章 環境市民づくりの知識を創造してこそ科学.....熊田 禎宣
    第4章 リスクコミュニケーションの活用による科学知識創造がもたらす公共選択のモデルチェンジ.....熊田 禎宣
    第5章 リスクコミュニケーションの理念とそれを活用した意思決定プロセスの整備.....樹下 明
    第6章 市民の個性を輝かせるリスクコミュニケーションによる人材育成センターづくり.....熊田 禎宣
    第7章 リスクコミュニケーションの欠除によるコンプライアンス・プアにおかされた大学.....熊田 禎宣
    第8章 知的創造力を支える心づくり活動の再生:憲法改正による公共選択の再編.....熊田 禎宣

  • 詳しくは、千葉商科大学経済研究所発刊『国府台経済研究第19巻第4・5号(2008年3月31日発行)』税込各1,000円で配布しております。
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