RSS中小企業支援研究創刊号
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えたからです。現地生産しているところは、円安になると現地子会社からの製品輸入価格が上昇するのでコスト増になる。上場企業にもそういう企業は結構ある。円安効果は相当限られてくると思います。中小企業にとっては、エネルギーコストが上がっているのがネックですね。下請け単価は変わらないから、収益は、当然上がらない。 競争力強化法では、設備投資減税で設備投資を増やそうとしているが、減税の効果は、黒字企業に影響があるだけです。大部分の中小企業は赤字なので設備投資減税の恩恵を受けていないし、なお多くの余剰設備を抱えている現状では、設備投資意欲は出てこない。 第2の矢は、機動的財政出動で、これまでの公共投資縮減政策から拡大政策に転じています。このため、公共投資に依存している地方では、停滞していた経済にやや明るさが見えます。とりわけ、震災の復興需要が大きい東北地方では土木関係の需要が増えています。ただし、公共事業の単価基準は上がっていない。したがって、小規模土木企業では「利益なき繁忙」状態にあります。齊藤:従来、輸出企業が円高でかなりのダメージを受けていたといわれていますが、それは緩和されたのでしょうか。港:ダメージは受けていたが、雇用調整補助金や金融円滑化法等でなんとか生き延びてきました。自動車関連では受注は増えてきましたが、電子や精密機器業界については、受注が増えていません。受注が増加した企業でも、円安によるエネルギーコスト上昇によって採算はむしろ悪化しています。黒瀬:2002年~2008年の円安による輸出増で景気が上昇していた時も、中小企業は忙しいけれど利益は増えなかった。それと同じように、自動車部品関連中小企業は、受注は多いが単価が上がっていない。齊藤:発展途上国との競争で中小企業は苦しい状況ということですね。港:そうです。受注単価が上がらないですから。黒瀬:アジア価格と競争しなければいけませんからね。大林:リーマン・ショック後に愛知の下請関連企業は非常に打撃を受けました。愛知では、リーマン・ショックの1か月前までそれらの企業の増産が続いていましたが、一転減産が長く続きましたからね。リーマン・ショックというよりトヨタショックといわれているようです。 この時の苦しさを教訓に、自社製品が簡単に海外生産に移されないような技術を身につけようと動いているようです。国内生産を維持する高品質、高デザイン、環境適用の部品に耐えられる技術を蓄えた企業が生き残っています。こういった現象は、新しい中小企業のありかたのような気がします。そのような、現状から逸脱している(大企業中心の)アベノミクスの論理は中小企業から見ると現実の問題に根差していない。不安に思いますね。一般に、財政当局や金融機関の方々は、中小企業を眼中にしていない気がします。土地を持っている企業は、地価が上がるので、お金を借りやすくなるというけれど、中小企業の優良なところは、そんなことは関係ないですからね。伊藤:たしかに非常にズレていますね。これからの日本の経済社会をどういうふうにするか具体的に何もないですからね。中小企業をどうさせるのか、明るい展望がないですよね。成長をどのように考えるか黒瀬:ただし、アベノミクスの批判派も、では、どうやったらいいかというと、具体策がない方がほとんどです。私は、成長率ゼロでもいいと思っています。どなたかが、成長しなくてもいいから変化すればよいといっておられたが、私もそれに賛成です。アダムスミスも人間というのは改善欲求があると述べています。人間は、量的な成長がなくても、黙っていても、社会を質的に変えていく。人間の労働というものが尊重されるような社会ができたならば、自己労働に基づく所有が実現する社会が形成されていくと思います。 歴史的にいえば、豊かな時代になっていますので、格差をなくし、平等に分配することを目標にしたい。そこで、中心になっていくのは中小企業であると思います。よく出す事例ですが、杖を作る会社の話をしますね。杖1つにしても、満たされていない需要があります。ある中小企業が開発したものは、倒れない杖です。これが大ヒットしました。そのほかにも、ボタン一つで伸び縮みする杖。倒れてもちょっと足で踏めばピンと立ってくれる杖を開発し、いずれもヒットさせました。 人類の歴史のなかで日々使っているアイテムであっても満たされていないものもありますね。このような反大量生産型の産業をどんどん作り上げていけばよいと思います。これらは、喜ぶ顔が見える。非常に人間的じゃないですか。これが経済の人間化です。私は「反大量生産型」の「身の丈産業」を、中小企業が中心になって作っていく15中小企業支援研究 Vol.1

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