RSS中小企業支援研究創刊号
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ことが必要であると思います。大林:成長論については、量的な成長論がよく議論されますが、一方で質的な成長の議論もあります。GDPの指標を経済成長の指標として良いのか悪いのかという議論です。幸福の経済としてブータンの例もあります。ゼロ成長と資本主義の両立可能性議論を深め、成熟社会の成長論を日本的課題とする必要があると思います。 ただし、日本における経済成長論には年来の問題があります。大企業と中小企業の利潤率格差です。これが、高度経済成長期時代から論議になっています。経済成長率が低くなると、利潤率格差は一層拡大します。それゆえに、中小企業の不満を抑えるために無理にも経済成長率を上げざるを得ないのです。したがって、経済成長率が低くて利潤率格差は縮小するような政策や改革が必要です。そのような政策や改革を推進しないで、経済成長率の上昇をやみくもに目指すのは、経済成長論の基本的な問題を軽視しているとともに、大企業支援策に過ぎないと思います。港:アベノミクスの『日本再興戦略』を読んだ感想ですが、前政権からの成長戦略と同じものという印象でした。官僚の描いたシナリオそのままで、「異次元の迅速さ、PDCAを回す」等書いてありますが、内容は以前とほとんど変わりません。全体として構造ビジョンが示されておらず、中小企業が軽視されている印象を持ちます。黒瀬:企業がやりやすい、経営しやすい社会を目指すということだけでしたよね。大林:国内外の大企業が日本国内で経営をやりやすいようにビジョンを作っていますね。逆にいうと、日本の大企業が海外に進出したいから、そういうことがビジョンになるんですね。大企業本位の政策であって、先進国全体の問題でもあります。 私は2010年秋にアメリカの中小企業政策関連の機関を視察する機会がありましたが、アメリカでは、大企業本位は1970年代で終わったという考え方が行政担当者の中に強くありました。Bigger is betterからSmaller is betterに、ということです。それを“マインド・シフト”といっています。彼らは本当に頑張っているなと私はつくづく思いました。 ただし、政府全体の政策の実際は、中小企業中心の実体経済回復路線ではなく、金融のサービス化を中心にした金融肥大化政策を選択し、金融立国的な方向に進めました。とはいえ、アメリカは、ベンチャー発想が基礎にあることも事実です。シェールオイルも、開発したのはベンチャー企業ですからね。 日本も金融立国的な方向に進むか、あるいは、実体経済の回復を目指す方向に舵を取るか、我々が選択する必要があると思います。中小企業と技術革新港:私は、これから中小企業が成長できるかどうかは、イノベーションを実現できるかどうかにかかっていると思います。研究開発活動を実施している企業は、成長性があり、付加価値率を高めています。それが中小企業の唯一の生き残る道であると思います。アメリカでは、中小企業の労働生産性は伸びています。中小企業ほど研究開発投資比率が高いのがその一因であると思います。量産型でない、高付加価値の商品をベンチャー企業が開発しています。Intuitive Surgical社は、外科手術用のロボット「ダビンチ」を製品化し、世界中に輸出しています。日本でも健康保健に適用され大病院に導入されています。1セット、3億円ですよ。日本は、中小企業の研究開発投資比率が少ない。中小企業の研究開発をいかに刺激していくか、イノベーションを起こしていくかという政策が欠落していると思います。大林:アメリカでも脱工業化といわれているものの、各工業の世界ナンバーワン企業は、残り続けていますからね。伊藤:港さんが話されていたイノベーションについてさらに掘り下げて議論を行っていきたいと思います。齊藤:日本は、ベンチャーが少ないとか、失敗したら再起不能だとか、銀行が投資しないとかよくいわれます。港:政府の研究開発予算があまりにも貧弱な気がします。アメリカは、研究開発費総額の25%を占めています。フランスでは30%以上あります。日本は過去20年間、民間企業の研究開発投資額が大幅に増えたが、政府支出は増えていない。今後、中小企業の知的生産性を上げることは非常に重要だと思います。政府補助金による中小企業の研究開発成果はあまり高くありません。したがって、補助金よりもマイナスの金利を付けた制度融資を作るべきであると考えます。マイナス金利とはいえ、融資ですから企業も慎重に研究開発課題を選択し、成果につながると思います。黒瀬:日本の中小企業は高度成長期、量産型で発展16中小企業支援研究

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