RSS中小企業支援研究創刊号
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の中にはあっという間につぶれてしまったケースも存在します。中小企業は、これからコア技術をいかに多くの異なった産業・商品に応用するのかという「コア技術の外延性」が重要になってきています。 日本電産はコア技術がモーターですが、そのモーターに関する企業を次々と買収して、多様な産業にモーターを供給する企業になって成長を続けています。自動車産業も、これからはモジュール化が一定程度は進展するでしょうから、「コア技術の外延性」がますます重要になってくると思います。黒瀬:市場というのは、商品が中心だけれども、いろいろな要素が重なって構築されている。顧客層、売り方、地域の組み合わせを変えることにより新市場を開拓する。これこそ、まさにマーケティングだと思いますね。大林:技術革新には社会的な制度の改革が必要だと思います。技術の開発に重要なのが、人材育成ですね。教育の実態を考えれば、少子化の中でますます既成の受験体制が強まっている気がします。この本質的な教育問題を改革することも重要になってくると思います。 大学の教育のあり方を変える。受験戦争を勝ち抜く人間とこれから社会で必要とされる人材のズレをどうすべきかを議論していかねばなりません。 現在に通用するグローバル人材を育成するには、全世界の競争企業に勝るような人間を育成することが重要であって、既成の物差しによって測る受験では難しいように思います。黒瀬:中小企業では、経営者と労働者がパートナー的な関係になって研究開発成果を上げている企業もあります。ある味噌生産の企業では、社長や専務の研究開発成果に対し社員が表彰しているんですよ。こういうパートナー的な経営手法を行っていくことで、従業員個々の能力を発揮させています。このような労働が尊重される経営によって革新力が生まれていくと思います。雇用の流動化論題港:ただ、そういう改良的技術開発は革新的な技術開発に繋がらないと思います。アメリカは、なぜ創造性が高いかというと、人材の流動性があるからです。シリコンバレーは、雇用が不安定で、いつ解雇されても仕方がない状態にあります。ただ、知的人材の情報ネットワークが発達していて、専門家同士が紹介し合っています。この知的人材の情報ネットワークは、知的情報の主要な交流手段であると同時に、それがセーフティーネットになっている。創造的な仕事の場合は、このようなネットワーク環境が必要になると思います。 日本は、同業に属する知的人材間の情報共有が少なすぎますね。これが日本の知的産業の集積効果を低めています。 日本も、金銭的対価による解雇制度をある程度認めていく必要があると思いますね。大林:研究・技術開発に携わる人材の流動性について、大きい方がいいかどうかは賛否があると思います。戦後の日本では長い間、大企業労働市場では流動性がなく、中小企業労働市場では流動性があるという認識がありました。流動的な労働市場は不安定でしたから、終身雇用は中小企業労働者のあこがれでした。それは、やむを得ずそうなっていた部分が大きいですが。現在、大企業労働市場において流動的な範囲は拡大しています。 中小企業に関する技術開発と人材の流動性については、人材の流動性は現在も高いのですから、問題は技術開発の成果を中小企業がいかに確保するかであり、多方面と連携することが重要になると思います。かつて、「イノベーションの国民的体系」という言葉を聞いたことがありますが、「イノベーション」の振興には、単に、競争の促進とか、人材の選別、元気な企業の発掘ということでなく、イノベーションを生み出す社会のあり方を問う必要があると思います。黒瀬:港さんは、革新的な技術開発が重要といっておられるが、インクリメンタルな技術開発も重要になると思います。重要なのは、革新することによって価格形成力を持つかどうかです。インクリメンタルな技術開発でも、それらが10個集まるとブラックボックス型の真似できない開発が見込まれますね。その技術は価格競争にさらされず、価格形成力を持つことが可能になります。 アメリカで今起こっている革新は、人材の流動化が引き起こしたものでなく、相互で情報を交換していることが重要であると思います。シリコンバレーでは相互で情報共有していますね。台湾の高雄にあるボルトの産業集積では、お互いが教師、お互いが生徒という具合に情報共有し、世界で有数のボルトの産業集積になっていますね。港:いや。知的人材の雇用が流動的な状況でなければ情報の共有は進まないと思います。シリコンバレーでは、情報ネットワークを介してお互いに必要な技術者の能力を確認しながら、新たに職を求めていきます。18中小企業支援研究

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