RSS中小企業支援研究創刊号
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35中小企業支援研究 Vol.14 この背景として、税務会計への慣れが考えられる。小藤も指摘するが顧問税理士にほどほどの納税で決算処理することを依頼する中小企業等は少なくない。また、利益を抑制するために高額な保険への加入、過大な役員報酬の設定、交際費支出など経費が計上されることも少なくない。決算での調整が長年実施されていると経営者だけでなく税理士でも原因がわからなくなる。経営危機に陥った場合、資産状況も悪化していることになる。経営管理には、管理会計の導入が求められるが、税務会計と同時に行うには、事務負担も少なくないことから、顧問税理士として実施していないのが実態である。5 意図的な損失計上(決算)は、会計情報の操作が行われたことを意味する。不適正な操作は、担当者の交代等事情を知る者がいなくなった場合、かつ、経営状況の悪化が発生した場合などの改善に支障をもたらす。経営者や税理士の交代の際に後任者が数値の不一致の原因が分からないということも少なくない。また、損益通算もできないことになり、不利益をもたらすことが少なくない。けで自己資本が脆弱で、危険な会社と判断できにくいことになる。経営者個人の資産を合わせれば、実質的自己資本がかなり大きくなるケースが存在する。」(小藤(2005)p. 101)とする。本論文では、小藤と同じ評価であるが、中小企業等の特性については、内部的な特性と外部的な特性に分けて考えた。それは次の通りである。事業運営における借入に際して、経営者は個人保証を求められる。また、自己の資金を会社に貸し付けることで資金繰りの円滑化を行う。損失が発生した場合、自らの報酬を受け取らずにキャッシュアウトを避け資金繰りを維持する経営者も少なくない。さらに、返済不能な状況となった場合には個人資産等の売却により充当することが求められる。つまり、中小企業等では経営者が、一旦窮境に至った場合に、法人と個人を一体とする対処(資産売却等での返済)が求められる。このような内部的な特性がある。一方で、地域住民を雇用し、防災や防犯を担うなど社会的な活動を行うことで地域経済を支える外部的な特性を持つ。②7割を超える欠損企業図表1は欠損企業数の推移である。推移からは欠損企業の割合は平成20年度以降、7割を超えていることがわかる。その原因の一つとして、納税額を可能な限り抑え、法人税の支払いを抑制するために、役員報酬や交際接待費等の経費を多く計上し、あえて赤字での決算を行う中小企業等の存在を指摘4できる。小藤は、「中小企業はたとえ利益が出るような状況でも役員の報酬や従業員への給与を増やすようにする。つまり、赤字の状態を意図的に作り出しているのであり、それは税金対策であったりもする」(小藤(2005)p. 101)と指摘する5。一方、法人企業統計調査(平成24年)に基づく欠損企業数は約185万社、円滑化法の条件変更等を求めた中小企業等が約40万社であり、その割合は約22%となる。また、損失が発生しているものの金融機関の評価を維持して、資金調達を円滑にするために営業利益や経常利益の確保を装う中小企業等、つまり、実質的な欠損企業(キャッシュフローが不足する企業)の割合も決して低くない。③重い借入負担図表2は、資本金別の償還年数を示す。資本金5000万円未満の中小企業等の償還年数は15年を超える。また、資本金1000万円未満の中小企業等では償還年数は20年に近い。この状況から、中小企業等の借入負担は大きく財務状態の厳しさが推測できる。図表3は、地域金融機関である信用金庫企業貸付及び貸出(平成25年 日本銀行(業種別、設備資金新規貸出)一覧を基に作成)の推移である。貸出件数は減少しているが貸出残高は平成24年度以降横ばいである。このことから、一社あたりの借入金額の増加が推測され、中小企業等の借入負担が重いことを裏付けている。④個人事業者の損益状況図表4は4業種の個人事業所の内、営業赤字事業所の割合の推移である。その割合は、卸・小売業で30%超、宿泊・飲食サービスでは約24%となっている。そして、製造業では約16%と厳しい状況である。4業種の単純平均では赤字事業所の割合は約20%となる。今後の検証が求められるが、わが国事業所に占める実質欠損企業の割合は決して低くない。⑤倒産、開廃業の状況図表5は資本金別倒産件数の推移(東京商工リサーチ、平成25年)だが、平成18年から同24年の資本金1000万円未満の企業の倒産件数は約7000件で高止まりしている。円滑化法が倒産を抑制したことは先行研究の多くが認めるところであるが、資本金別倒産件数の推移をみると資本金1000万円から5000万円未満の企業で、その効果が出ていると思われるものの、資本金1000万円未満の企業の倒産件数は横並びとはいえ高止まりしており円滑化法の効果は及ばなかったのではないかと考える。図表6は法務省登記統計商業・法人年報(平成24年)に基づく法人の改廃の推移である。廃業等の件数は減少傾向とはいえ平成10年以降増加に転じた開業数を

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