RSS中小企業支援研究創刊号
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全国386万(2012年)の中小企業は、日本経済の根幹をなし、地域経済と雇用を支える中核的存在となっています。この中小企業を取り巻く環境は、欧米の景気低迷、中国・韓国・発展途上国等の追い上げ、グローバリゼーションの進展に伴う国内設備投資需要の減退および賃金コストの削減に伴う国内消費需要の減退などのために極めて厳しい状況となっています。このために国、都道府県、中小企業基盤整備機構などが中小企業支援施策を実施していますが、その成果は十分に発揮しているとはいえません。この一因は大学の持っている知的資源が有効に活用されていないことにあると私は思っています。私はこれまでの経験から、企業が情報と豊富な資金を有しており、経済・経営研究に大きな役割を果たしていることは事実であるが、企業にある情報が企業内にとどめられて一般に広く公開されておらず、また、その分析にはビジネス目的からの制約がある、新聞報道は、新しい情報の提供には有効であるが、長期的視野から、理論的研究と歴史的研究に基づいて現状を評価するということが不十分である、また、広範な読者層を対象としているために、特定の問題を鋭く追及するということが困難である、日本のシンク・タンクは、優れた委託研究を行っているものの、依頼先の意向に制約される、真理追求を目的とする大学の研究者は、理論的・歴史的研究を行い、その成果を広く公開しているが、現場との接触が乏しく、企業の実態に深く切り込めていない、官庁は優れた人材を擁し、また、豊富な情報を有して、政策立案能力があるとされているが、その政策評価を自ら行うことが困難である、ということを感じてきました。この結果、大学の研究所が企業、官庁、経済団体、研究者等の間のパイプ役となり、国民経済の発展に寄与する情報の伝達と研究水準の向上に努めることが重要であると考えるに至っています。今日の日本経済において中小企業の経営支援が極めて重要であることには異論がありません。今日、内閣府・金融庁・中小企業庁の「中小企業支援ネットワークの構築について」(2012年12月14日)にみられるように、全国47都道府県において、各県・市信用保証協会を中心に、地域金融機関、政府系金融機関、中小企業再生支援協議会、企業再生支援機構(現:地域経済活性化支援機構)、法務・会計・税務等の専門家、経営支援機関、地方公共団体、財務局、経済産業局等が連携し、中小企業の経営改善・事業再生支援を推進するためのネットワークが構築されています。各機関の連携を通じての情報交換や経営支援施策、再生事例の共有化等による中小企業の経営改善・事業再生の促進が図られています。本研究所内に昨年度におきまして、中小企業研究・支援機構が設置されました。本機構はそのネットワークと連携して、中小企業の経営改善・事業再生に貢献していきたいと考えております。本機構は営利企業だけでなく、非営利事業、地域活性化のための共同事業(businesses)をも研究・支援の対象としています。本機構の具体的な活動として、中小企業に関する産・学・官連携の共同研究、公開シンポジウムの開催、経営革新・経営改善・人材育成などに関する実践的な情報提供、中小企業・地域活性化のための受託調査、本学大学院中小企業診断士養成コース修了者の能力向上、海外の大学、研究機関等とのネットワークづくりを行うことにしていますが、今般新たに『中小企業支援研究』という機関誌を発行することといたしました。本誌は中小企業に関する学術論文を掲載するとともに、本機構が蓄積した、中小企業の経営や技術などの経験と中小企業の実態、中小企業政策等に関する情報を公開して、学術研究および地域社会や国民経済の発展に貢献することを目的にしています。ことにさまざまの中小企業関係者に関する情報の長期的保持と公開は、大学、大学の研究所でなければ困難であると考えています。本誌を中小企業研究の専門家だけでなく、中小企業関係者など、多くの人々に興味深く読んでもらえる機関誌としたいと考えています。当面は年1回の発行となります。本誌を目にされます皆様方のご支援をどうかよろしくお願いいたします。『中小企業支援研究』発刊に際して千葉商科大学 経済研究所中小企業研究・支援機構長商経学部教授齊藤 壽彦3中小企業支援研究 Vol.1

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