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Topicsトピックスドイツにおける中小企業振興政策欧州連合・連邦政府・各州政府による振興政策の三層構造千葉商科大学商経学部 准教授三田村 智16中小企業支援研究製造業における高付加価値の創造を経済産業政策の基盤に据えるドイツでは、2011年にインダストリー4.0(Industrie 4.0)という概念が提唱され、世界中から注目されている。これは、IT分野などの技術革新を工場でのモノづくりに広範に渡って活用していくことで、製造業やそれに関連したサービス業の活性化を目指すものである。第3次産業革命と呼ばれたIT革命に続く第4次産業革命との位置づけである。ドイツ連邦政府は2012年にインダストリー4.0に関するワーキンググループを立ち上げ、翌13年までに主要な経済産業政策の一つとして、インダストリー4.0プロジェクトを位置づけるべく概念整理を行った。そこでは、インダストリー4.0の担い手として、中小企業(Mittelstand)の重要性があらためて認識されている。ドイツは、わが国と同じように、中小企業が経済産業の基盤にあり、これまでも様々な技術革新は中小企業により生み出されてきた。しかし、スケールメリットなどを理由に、中小企業は大企業に比べて競争上不利な立場に置かれている。そこでドイツ連邦政府も、また各州政府も、かかる中小企業を支援・振興していくために、例えば財務面において様々な政策を行おうとする。とはいえ、やみくもな支援政策は、公正な競争市場の阻害要因ともなりうる。ドイツは、欧州連合(EU)の一員という立場から、この問題とも真剣に向き合わなければならない。現在のドイツにおいて、中小企業が受けることのできる振興政策は、その提供主体から大きく3種類に分けられる。1つ目は、地元州政府の振興政策である。地方分権が進むドイツでは、各州政府が独自に中小企業振興政策を打ち出しており、州政府による振興政策は中小企業の経営に大きな影響を与えている。2つ目は、ドイツ連邦政府による振興政策である。財務面での支援を挙げれば、ドイツ連邦政府系の復興金融公庫(KfW)と呼ばれる巨大金融機関がその担い手となっている。ここまでは、国と地方自治体というわが国の枠組みと類似しているが、これにEUという第3の提供主体が存在するのが、欧州諸国の特異な現状である。すなわち、3つ目はEUによる振興政策である。EUも中小企業振興政策には力を入れており、特に汎欧州企業育成を中心とした振興プログラムが提供されている。ドイツでは中小企業振興法が連邦レベルでは存在せず、各州政府が独自に設けている。そこでは、中小企業振興政策は地域経済政策の1つとして位置づけられている。振興政策の実施手段は異なり、資金を直接的に振り向ける補助金形式を重視する州もあれば、利子補給の形でより多くの企業の低利貸付を実現しようとする州もある。これらの低利貸付や補助金支出等のプログラムを提供しているのは、州政府系振興機関(Förderinstitute)である。これに、公的ベンチャーキャピタル(VC)(öffentliche Beteiligungsgesellschaften)と保証銀行(Bürgschaftsbanken)が加わり、これら3種類の機関が互いに連携して、振興政策が実施されている。具体的には、振興機関は主に貸付金融を担い、公的

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