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トピックス17中小企業支援研究 Vol.3VCが自己資本出資、そして保証銀行は各種保証制度を提供している。特に、公的VCと保証銀行は、同じ建物にオフィスを構えるなど、強い連携を持つ場合が多く見られる。そこでは、公的VCが行う持分参加金融に対して、保証銀行が部分補償を与えている。なお、公的VCが提供する自己資本出資は、いわゆる民間のベンチャーキャピタルによるリスク資本投資とは異なり、経営に直接参加することはなく、通常の融資形態に似た匿名出資の形を採っており、一種のメザニン資本として位置づけられている。連邦政府レベルの政策金融機関である復興金融公庫グループ(KfW)は、低利での貸付金融であるKfW-Unternehmerkreditが主な振興プログラムになっている。リーマンショック以前は、中小企業の自己資本増強のため、自己資本出資やメザニン出資にも力を入れてきたが、現在はむしろ貸付金融を軸に据えている。また、創業者支援のためのERP-Gründerkreditも多く活用されており、これは事業承継時にも利用することができる。この他、通常の設備投資以外に、研究開発資金や環境問題対策資金については別途様々な振興プログラムが用意されており、両者のために提供されている資金の合計額は通常プログラムとほぼ同額である。EUレベルの振興プログラムは現在、欧州投資銀行(EIB)と欧州投資基金(EIF)からなるEIBグループにより行われている。中小企業向けの貸付金融や保証業務は欧州投資銀行が担い、中小企業向けのVC業務を欧州投資基金が行っている。特に、欧州投資銀行では、汎欧州企業育成を目的に中小企業の海外進出支援を積極的に進めている。これらの各主体による中小企業向け振興プログラムは全て、対象となる中小企業が日頃取引をしている地元の金融機関を申込窓口として提供されている。個々の中小企業にとっての主要取引先金融機関は「ハウスバンク(Hausbank)」と呼ばれ、ドイツの中小企業金融を考える上でのキーワードである。ドイツをはじめ、大陸ヨーロッパの各国では、中小企業や個人向けのいわゆる地域金融の担い手として、協同組織金融機関が重視されている。ドイツでも、中小企業にとってのハウスバンクの多くは、貯蓄銀行(Sparkasse)または信用協同組合(Genossenschaftsbank)といった協同組織金融機関である。ハウスバンクはこれまで、単なる振興プログラムの窓口としてだけでなく、いわゆるリレーションシップバンキングという点でも中小企業金融を支えてきた。すなわち、中小企業は、常により完全な情報の提供を前提とした(そうでなければリスク・プレミアムの上乗せを伴う)直接金融市場で資金調達を行うのではなく、ハウスバンクとの相対型の間接金融を長期的に継続し続けた。その結果、情報提供にかかる費用を削減し、より低利で安定した融資を得ることができたのである。しかし、EU市場統合の深化は、そうした協同組織金融のあり方に少なからぬ影響を与えようとしている。EUという共通の市場において公正な競争に向けた環境作りがなされる中、特定企業による市場の独占、特定企業に対する国家による資金援助(state aid)が問題視され、規制の対象になった。例えばドイツでは、貯蓄銀行の上部機関にあたる州立銀行に対する政府保証が撤廃され、政府保証による低利の資金調達という従来のビジネスモデルの再考を余儀なくされた。その一方で、EUにおける市場統合が中小企業に直接与えるインパクトも大きく、例えば中堅企業にとってはEU域内他国への進出が容易になった。また、国内のみで活動するような中小企業にも、他国企業との競争を意識した経営が求められている。こうした環境の変化は、ドイツの中小企業が積極的に海外進出する契機ともなった。2012、13年のわが国の通商白書では、海外進出に積極的な事例としてドイツの中小企業を特集しているが、EUで起きている問題はまさにグローバル化の縮図である。その意味において、ドイツが直面している問題やその解決策として行われている様々な試みは、わが国の今後の中小企業振興政策のあり方を考える上でも大いに参考になるであろう。

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