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INTERVIEW大角 その通りです。簡単ではありませんでした。生ものですから、フルーツを加熱し、ジャムにし、日持ちさせるものもありますが、加熱しない生のフルーツはコストが高くなります。日持ちをするのはどら焼きくらいで、大福はすぐ固くなりますし、いちごはすぐ腐るし、小豆も時間がたつとすぐにおいがプンプンするようになるので、試作に大変苦労をしました。パートの方にモニターをお願いして、試食をしてもらいました。正月から始めて2月6日までかかりました。商品は何十種類もあるのですが、人気商品を作りたい一心でした。前田 完成したのですね。大角 はい。外気で和菓子の硬度が変わりますが、1、2月は寒のころで、水も夏の20度に比べ5度くらいなので、和菓子が水と調和したおいしい時期に完成しました。当時は生のいちごを使った大福はなかったので大ヒットにつながりました。前田 反響はいかがでしたか。大角 30個作りましたら、大人気で、次は60個と毎日倍々を作りましたが売り切れました。近くにフジテレビがあり情報をキャッチされましたのでマスコミ効果も大きかったと思います。時代も場所もよかったし、季節もよかったので、偶然にも恵まれていちご大福が誕生したと思っています。そのあとは、ご利用いただいたお客様の口コミのおかげで一層広がりました。前田 P. H. Nystromという小売業の研究家が「良い商品を適切な場所で、適切な時に、適切に販売することが成功のカギだ」と言っているのですが、偶然も味方したにせよ、まさしくそのことが実現されたことになりますね。しかし、そんな条件を全部ご自身で考えて作り、販売するようなことは難しいことですから、結局はご自分のいる和菓子という場所で、強い信念をもって、売れると思う商品を追求し、お客様に気に入られるように工夫し続けてきた結果なのでしょうね。大角 そうだと思います。ケーキもバターから生クリームに代わったのですから、和菓子もチョコレートを使ったものもあって良いのでは、といろいろ考え続けていました。前田 いちご大福が誕生したときは、業界ではどのような反響でしたか。大角 最初はこのような大福は見たこともないですから、ジャムが入っているのかとか、生のいちごですから食べられるのかという人までいましたが、食べたお客様から口コミで広がっていきました。人気が出ると、全国から和菓子の材料屋さんまで見学に来ました。バスでの視察もありました。前田 同業者も多かったのですから真似ようとした人も多かったのでしょうね。大角 私も秘密にはしないでどうぞやってくださいと言いました。囲い込むことはしませんでした。どうせ全国のお客様をとることはできないのですし、真似するならしていただいた方が、いちご大福自体にとってよいことという意識がありましたから。林 私の家の近くにも売っている店があります。元祖の問題と和菓子業界への貢献前田 特許・登録をしなかったのですね。大角 しませんでした。特許庁の方がいらしてとっておかなくてよいのですかといわれましたが。前田 その結果、全国に類似のいちご大福がたくさん生まれましたね。大角 予想外でしたのは、インターネットで調べただけでも全国で十数軒も「元祖」と謳って登録していたことでした。ついには、テレビで自分の県が発祥の地であるというものまで出てきました。前田 職人のプライドが許しませんね。“元祖”いちご豆大福19中小企業支援研究 Vol.3

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