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巻頭言中小企業支援研究の意義千葉商科大学 経済研究所中小企業研究・支援機構長商経学部教授齊藤 壽彦我が国では、中小企業・小規模事業者が385万者(2012年)と全企業の99%を占め、日本経済の活力の源泉となっており、また地域経済を支えている。従業員の63%は中小企業に所属し(2009年)、また、製造業の出荷額の47%は中小企業が占めている(2010年)。中小企業・小規模事業者が経済や暮らしの支柱となり、雇用の大部分を支え、地域社会と地域住民の生活に貢献しているのである。この中小企業・小規模事業者の維持・発展のためには、顧客からの信頼確保と顧客ニーズの発掘とこのための創意工夫、従業員からの信頼確保、地域・社会に対する貢献の姿勢がまず必要である。その中には、経済的、経営的に困難な状況に陥っているものがある一方で、技術や経営に独自性を有するやる気のあるものが存在する。我が国は現在、国際的、国内的な景気低迷、少子高齢化などの問題に直面している。このような状況下で、中小企業の自助努力を尊重しつつ、経済的な困難を抱えた中小企業を経済政策的、社会政策的に支援するとともに、中小企業の、ものづくりなどの分野での技術開発、新事業への挑戦を助長する枠組み作りをすることが、安定的で活力ある経済と豊かな国民生活を実現する上での喫緊の課題となっている。中小企業への支援は国家の財政的助成政策に留まるものではない。個別中小企業を支援するために「中小企業支援ネットワーク」が構築されており、信用保証協会(事務局)、地域金融機関、政府系金融機関、中小企業再生支援協議会、地域経済活性化支援機構、法務・会計・税務等の専門家、経営支援機関(商工会、商工会議所等)、地方公共団体、財務局、経済産業局等が個別事業者の経営改善、再生スキルの向上などを支援している。中小企業基盤整備機構、中小企業診断士、大学の情報提供などの中小企業支援の役割も期待されている。中小企業支援の施策としては、減税、補助金交付、政策金融、地方自治体の制度融資、信用補完(信用保証・信用保険)、金融機関の直接融資の改善(地域密着型金融の推進、動産担保の導入、個人保証の見直し)、ベンチャーファイナンスの強化などがある。金融機関の目利き能力の向上も挙げられる。中小企業が特に必要としているのは売上げの増進策および経営革新・経営改善・技術開発情報であり、大学、研究機関などがこのための有効な情報を提供していくことが求められる。売上げの増進策については、金融機関のビジネスマッチング活動も有用であろうが、中小企業の経営者の成功と失敗の経験に学ぶことも重要であろう。経営者へのインタビューを積み重ねて、売上げの維持、増加と結びつく知恵を一般化することができるならば、調査研究を通じた中小企業支援として中小企業の発展に大いに寄与することができるであろう。本機構が経営者インタビューを行っているのはこのような考えによるものである。大学の工学部であれば中小企業との共同技術開発、技術開発情報提供を行うことができるであろうが、文化系の大学研究機関としては、中小企業の経営革新・経営改善などの情報を公的機関や民間調査研究機関や企業から広く集め、分析し、この成果を非営利で広く社会に公開していくことが必要であろう。これにより、中小企業に関する研究を通じて中小企業の維持・発展を支援することができるであろう。本機構はこのような課題を果たすことを目指しているのである。1中小企業支援研究 Vol.3

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