RSS3
30/66

時事解説政策転換の起点になる2016年2015年(1-12月)の全国企業倒産は8,812件(前年9,731件)で7年連続前年割れとなった。9,000件を下回ったのは、バブル期の1990年(6,468件)以来、25年ぶりである。倒産が落ち着いている背景は、大企業の業績牽引もあるが、最大の要因は金融機関が融資先企業の返済猶予(リスケジュール)の要請に柔軟に対応するなど、政府主導の中小企業対策の効果が大きい。ただ、落ち着いた推移を見せる倒産だが、肌感覚の景況感とは必ずしも一致していない。倒産形態は破産が全体の81.8%を占め、再建型の民事再生法は2000年4月の施行以来、最少の238件にとどまる。事業再生が話題になるなか事業再生のめどが立たない小・零細企業の脱落が続いている点は留意する必要がある。また、2008年秋のリーマン・ショック、2011年3月の東日本大震災、2014年4月の消費税率引き上げなど、3年ごとに大きな社会的、経済的な環境変化に見舞われ、政府主導の様々な中小企業支援策が講じられてきた。このため企業倒産は実態以上に抑制され、景気を反映しない「倒産が見えにくい状況」にある。リスケを活用した企業は30万~40万社と推計されるだけに、水面下で政策に下支えされている企業群の動向は決して楽観視できない。こうした状況下で、2016年は暫定リスケが終了し、金融機関の取引先への「事業性評価」が本格化する。さらに保証制度の見直しや中国経済の減速など、企業を取り巻く環境が大きく動き出している。本稿では中小企業の課題と主な政策転換について論じたい。信用保証制度の見直し経済産業省は、「信用保証制度」の見直しに向けて動き出し、2016年から具体的な制度設計に着手することが明らかになった。信用保証制度は、各都道府県にある信用保証協会が中小企業が金融機関から融資を受ける際に債務保証する制度で、倒産などで債務返済ができなくなった場合に返済を肩代わり(代位弁済)する。いわば中小企業の資金繰りの最後の砦でもある。2007年10月に責任保証制度がスタートし、以降は原則として信用保証協会の保証は一般保証で8割保証、セーフティーネット保証では10割保証となった。保証協会付きの融資先の企業が倒産した場合、金融機関のリスクは融資額の2割にとどまる。全額リスクを負う通常融資より貸し出しやすいが、万が一の際は2割の焦付きが発生する。このためリスク回避を求める金融機関は経営支援への取り組みが不十分で、企業側も経営改善のモチベーションが乏しいモラルハザードが常に指摘されてきた。なお、信用保証制度の収支は制度開始以来、赤字が継続しており、この補填には税金が投入されている。経済産業省は今回の見直しで、一般保証の一律8割保証を改めて、企業のライフステージ(創業、成長、安定、再生、撤退)や融資規模の状況に応じ保証割合を変える方向性を示した。企業の健全な成長発展や新陳代謝を阻害しない仕組みで、2017年度以降中小企業が直面する課題について河原 光雄株式会社東京商工リサーチ 代表取締役社長28中小企業支援研究

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

page 30

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です