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【評論】中国の産業発展の担い手は誰か—日本の中小企業研究者から見た中国産業発展試論慶應義塾大学 名誉教授渡辺 幸男2中小企業支援研究はじめに筆者は長らく日本の下請企業や産業集積の実態調査研究を行い、日本の産業発展を研究してきた。企業経営者からの聴取りを中心に、中小企業の側から日本の産業発展を見てきた。1999年に、偶然、中国の中小企業発展政策研究のための日中共同プロジェクトの日本側主査を担当し、翌年の3月、北京でシンポジウムの際、中国産業研究者につれられ、北京郊外の繊維製品専門市場と周辺の浙江村の小工場群を見学した。巨大な専門市場の賑わいにも驚いたが、最大のショックは浙江村の1小工場を覗いた時に生じた。従業者3名の専門市場向けの零細工場で、ワンポイント刺繍を刺しており、機械は中国メーカー製の年代物の刺繍機2台で、FD駆動NC装置により自動で刺繍をしていた。しかし、それぞれに作業者がついてである。ここから、中国には刺繍機やNC装置を生産する国内企業が既に存在し、ME化は零細工場でも進行しているが、刺繍機の精度が落ちるため糸切れが頻繁に生じ、不熟練作業員が糸を繋ぐために1台ごとにつかねばならないことが見えた。すなわち、中国にはIT関連も含め、先進的な近代工業の諸要素、技術や機械が、数段精度が落ちたとしても国内で安価な形で存在し、生産され利用されている状況が見えたのである。その年の夏、初めての本格的現地調査を、浙江省の紹興市と温州市で2週間行い、北京郊外で垣間見た中国工業の現実を、より大規模な形で民営企業中心の2つの新興工業都市で見ることができた。同時に、そこから見えたことは、中国国内市場の開拓余地がきわめて巨大で、未開拓市場を開拓すれば、数年で数千人の企業になることも不可能ではなく、そんな民営企業が数多く浙江省に存在し、そこでの成功には、市場の発見こそ最も重要で、必要な技術や機械は、中国に存在する既存のものの利用でほぼ十分なことである。これらを原点に、2011年まで毎年のように中国沿海部の諸省で工業企業等への聴取り調査を重ね、中国製造業の発展をどう見るべきかについて、筆者なりに悩んだ。結論は、中国には国有巨大企業が多数存在し、外資系巨大企業の大量進出もあるが、中国の産業発展を主導し、中国の工業の今後を方向づけているのは、民営企業群だということである。激しい競争下にある民営企業が、中国の計画経済下で培われた近代工業の諸経営資源を、一挙形成の新市場開拓に活かし、中国国内に安価なもの作りのための多様で巨大な生産能力を一挙形成した。中国国内に独自生産体系を構築し、先進工業企業が供給不能な水準の安価なそれなりの製品を作り上げ、中国国内市場や先進工業国低級品市場、そして形成途上の発展途上国市場の巨大な部分を獲得している。これが中国民営企業群である。この点を筆者にさらに知らしめたのは、天津市の自転車産業との出会いであった。中国の自転車産業には、計画経済期、そして改革開放初期を通して、国有メーカーが垂直的統合の寡占的巨大企業として存在していた。また、1990年代には、世界の自転車産業を当時主導していた台湾と日本を中心とした外資系の自転車完成車メーカーが、一斉に中国国内

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