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42中小企業支援研究学術論文~4Psから価値共創マーケティングへの転換~マーケティング領域の拡大に伴う新たなマーケティングの構築1.はじめに今日、モノではなくサービスに焦点を当てたマーケティングへの関心が急速に高まっている。しかし、そこでいうサービスは、これまでのようなモノとみなすサービスではなく、プロセスとして捉えるサービスを意味している。このような考え方が生まれた背景には、Vargo and Luschによるサービス・ドミナント・ロジック(Service-Dominant logic、以下、S-Dロジック)及びGrönroosによるサービス・ロジック(Service logic、以下、Sロジック)の提示がある。両者に共通するのは、サービスをプロセスとして理解することにあり、今日、こうした視点からマーケティングにおける理論と実践の捉え直しが行われている。 即ち、サービスの本質を踏まえるなら、そこで展開されるマーケティングは、これまでのような事前的なものではない。むしろ、それは、同時進行的なものとなり、また、同時進行するマーケティングの時空間は、伝統的なマーケティングとは異なると考えられ、そうした新しいマーケティングの世界に目を向ける必要がある。そこで本稿では、モノではなく、プロセスとしてのサービスに焦点を置いた時、マーケティングが持つことになる新たな領域とはどのようなものか、また、そこでは、どのようなマーケティングが展開されるのか、について明らかにする。それでは、どのようにすれば新たなマーケティング領域とそこで行われる新しいマーケティングを示すことができるのか。そのための手順としては、まず、伝統的マーケティングをレビューすることで、その本質と理論的射程がどこにあったのかを明らかにする。そして、マーケティングの捉え直しに大きな影響を与えたS-Dロジック及びSロジックの「論理」を明らかにするとともに、それらが、どのように新たなマーケティング領域を導くかを理論的に述べる。そして、最後に、そこで示された新たなマーケティング領域で展開される新しいマーケティングとは何かを明らかにする。2.伝統的マーケティングの本質と   理論的射程2.1 マーケティングの成立とマーケティング・マネジメント体系Shaw[1915]によるSome Problems in Market Distributionをマーケティング研究の嚆矢とするなら1)、企業の外部問題を扱うという点においてマーケティング研究は特徴付けられる。彼は、企業活動を生産活動、流通活動、そして、助成活動からなるものとして捉え、生産活動のあとの対外的な流通活動については、さらに、これを需要創造活動と物的流通活動に区分し、このうち、需要創造活動を担うものとして中間商人、販売員、広告をあげた。従って、そこには、今日のマーケティング・マネジメントに通じるものをみることができる。そして、確認すべきは、マーケティングの行為主体は製造業であり、企業の対外的活動として、具体的には、対市場活動の総称としてマーケティングは理解されたということである。その後、このマーケティングは、1960年前後にマネジメントの視点を取り込み、今日の4Psを軸としたマーケティング・マネジメント体系に至った。つまり、そこには、それまで個別に行われていたマーケティング諸活動をマネジメントの視点から統合的に捉えるという狙いがあった。この辺りの経緯については後述するが、体系化されたマーケティング・マネジメントの幅広い普及と発展の中心にいたのが、周知 村松 潤一2016年2月16日掲載承認 1)これは、もともと、Quarterly Journal of Economics,Vol.26,August,1912に載せた同名の論文にThe Nature and Relations of Activitiesという第1章を加えたものであり、その意味では、1912年のこの論文が最初にあたる。広島大学大学院社会科学研究科 教授

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