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43中小企業支援研究 Vol.3のようにKotlerである。彼は、1967年にMarketing Management:Analysis,Planning, and Controlを著し、その標準的テキストは、世界でもっとも多く読まれ、その後も継続的に行われた改訂作業によって、2015年には第15版が出版されている。つまり、モノの豊かさを求めた20世紀の先進国工業社会において、製造業が流通及び消費に関与する理論と手法としてのマーケティング研究を今日まで牽引してきたのがKotlerということになる。しかし、経済のサービス化が急速に進展するとともに、サービスに焦点をあてたマーケティング研究が求められている今日、伝統的マーケティングの有効性を改めて問い直すことが必要である。そこで以下、Kotlerのいうマーケティング・マネジメントを念頭に置きつつ、伝統的マーケティングの本質と理論的射程がどこにあったのかを明らかにする。2.2 4Psを軸としたマーケティング・マネジメント−Kotlerの主たる関心さて、1960年前後におけるマーケティング・マネジメント体系化の経緯は、以下のようである2)。まず、Howard[1957]は、マーケティング・マネジャーにとって統制可能な要素(マーケティング諸手段)と統制不可能な要素(マーケティング環境)を区分し、前者を用いて後者に創造的に適応することがその職務であるとした。そして、その考え方を引き継ぐ形で、McCarthy[1960]は、統制可能なマーケティング諸手段を4つのP(product,price,promotion,place)に集約するとともに、Howardにあっては、統制不可能な需要の中に埋没していた消費者をマーケティング努力の対象として明確に位置づけ、今日でいう伝統的マーケティング、即ち、マーケティング・マネジメント体系における4Psモデルが出来上がった。そして、ここで指摘しておきたいのは、マーケティング・マネジメントにとって管理・操作できるのは、あくまでも製品(即ち、モノ)を中核とする4Psであり、消費者は、もともと統制不可能な需要として位置づけられていたように、その限りではないということである3)。この点は、新しいマーケティングを考える場合に非常に重要なものとなる。それでは、こうしたマーケティング・マネジメントは、一体、誰によって遂行されるのか。いうまでもなく、それは、企業による市場行為として行われるが、重要なことは企業という組織において誰が行うかという点にある。こうしたことからいえば、Howard、McCarthyは明らかにミドル・マネジメントとしてマーケティング・マネジメントを捉えている。例えば、McCarthyのモデルでは、統制不可能要因に文化的・社会的環境、政治的・法的環境、経済的環境といった外部要因と並んで、企業の経営資源と目的、既存事業の状況といった内部要因があげられているが、それらは、明らかにミドル・マネジメントによる統制範囲を超えている。しかし、Kelley[1965]は、企業経営の在り方はマーケティングに規定されることから、それはトップ・マネジメントの責務であるとし、いわゆるマーケティング担当重役の立場からマーケティングを捉えている。そして、そうした考え方に至ったのは、すでに、彼自身、Kelly and Lazer[1958]において、トップ・マネジメントが行うマーケティングをマネジリアル・マーケティングとして概念化していたからに他ならない。そこにおいては、マーケティングを中心に置いた経営は、トップ・マネジメントによって必然的に採用されると指摘されていた。それでは、Kotlerはどうか。実は、彼もマーケティングの遂行者については、当初からミドル・マネジメントとトップ・マネジメントの区別を認識しており、その後の一連の著作についても同様である。それでもなお、彼の中心的な関心がミドル・マネジメントにあったことから、最近まで、ミドル・マネジメントが行う4Psを軸としたマーケティング・マネジメントに関する研究が多くなされてきたに過ぎない。従って、マーケティングとミドル・マネジメントが行うマーケティング・マネジメントがイコールというわけではない。そして、トップ・マネジメ2)マーケティング・マネジメントの体系化の経緯については、村松[2009]に詳しい。3)例えば、消費者の囲い込みという表現が使われることがあるが、もし、それが消費者を管理・操作の対象として捉えるものとして、マーケティング研究者によって発せられたとするなら、それは、明らかに間違いである。マーケティングが管理・操作できるのはあくまでも4Psである。

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