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44中小企業支援研究学術論文ントとしてのマーケティング、言い換えるなら、すでに全社レベルのマーケティングとして認識されていたマネジリアル・マーケティングが再び日の目を見ることになったのは、1980年代における戦略的マーケティング概念の台頭においてである。例えば、Assael[1985]、Cady and Buzzell[1986]らによって提示された戦略的マーケティングは、1970年代において実質的に製品・ブランド・レベルにあったマーケティングを事業及び企業レベルにまで引き上げようとしたものである。それらは、明らかにマーケティング・マネジメントの範疇を超えており、マネジリアル・マーケティングと同じ考え方に立つものといえる。さらに、こうした戦略的マーケティングが具体的な戦略手法を内包した体系を示したことから、その台頭は、マーケティング研究に大きな理論的進展をもたらしたといえる4)。そして、ミドル・マネジメントのマーケティングに焦点を置くKotlerは、当然のことのように、こうした戦略的マーケティング論議には加わらなかった。2.3 伝統的マーケティングの理論的射程何れにせよ、Kotlerの強い影響から、ミドル・マネジメントとしてのマーケティングの研究が今日まで米国を中心として支配的であったのは事実であり5)、そのことを踏まえつつも、マーケティングにおける成果をどのように捉えるかは、その理論的射程を明らかにする上で極めて重要のことといえる。何故なら、マーケティング行為の何を以て成果とするかということは、マーケティング行為それ自体の範囲に強く依存していると考えられるからである。さて、マーケティング研究において、4Psを軸としたマーケティング・マネジメントと同じように良く知られているのが、マーケティング戦略の公式化である。Oxenfeldt[1958]は、市場戦略は、市場標的の確定、マーケティング・ミックスの構成からなるとし、さらに、Oxenfeldt[1965]においては、こうした市場戦略の策定と、その実施・統制までを含むものをマーケティング戦略と呼んだ。つまり、マーケティング努力を集中すべき標的市場を特定し、そこに向けたマーケティング手段を最適に組み合わせ、そして、実施・統制するというマーケティング戦略が、マーケティング行為それ自体の成果を高めることに狙いがあったのはいうまでもない。マーケティングにおける成果とは、市場との関わりにおいて捉えられるものということであり、そのことは、最終的にマーケティングがより良い市場取引(交換)、つまり、モノとカネの交換を目指すことに繋がっている。そして、ここで、より良い市場取引(交換)とは、マーケティング行為の主体が企業側にあることから、直接的には、企業にとってより良いということを意味するが、取引そのものが市場を媒介と行われる以上、それは同時に、消費者にとっても結果的により良い市場取引(交換)ということになる。そして、その際に特徴的なことは、マーケティングが考える市場とは、消費者の集合だということである6)。言い換えれば、市場概念に競争企業は含まれず、あくまでも、売り手としての自分(企業)と買い手としての相手(消費者)の関係に研究の焦点が置かれてきたということである。つまり、消費者と市場でより良い取引(交換)を行うことがそのゴールなのであり、そこにおいては、取引(交換)後の世界に大きな関心はなかった。確かに、これまでのマーケティング研究においては、Lazer and Kelly[1973]によってソーシャル・マーケティングなる概念が示され、消費者の購買後にも関心が寄せられたことがあった。しかし、そこでの主張は、モノの消費・使用段階で、当該消費者及びそれ以外の消費者、さら4)この時期、競争戦略論が台頭したこともあり、いわゆる対競争概念として戦略的マーケティングが捉えられることもあったが、そこには明らかな誤解がある。競争戦略論は、産業組織論をベースにしたものであり、既存の産業という枠内での企業間競争に関心があった。これに対して、戦略的マーケティングが台頭したのは、むしろ、1970年代の閉塞した米国経済からの脱却を図るため、新しい産業、市場、製品そのものを創出する役割を担うマーケティングを全社レベルで捉える必要があったからである。それは、まさにマーケティングの創造性に期待する考え方であったといえる。5)米国を中心としたマーケティング研究が、市場取引(交換)に軸足を置いてきたのに対して、北欧学派によるマーケティング研究は、サービス・マーケティング、生産財マーケティング、関係性マーケティングをみる限り、必ずしもそうではない。むしろ、本文で後述するSロジックもそれらの研究を土台としており、米国で生まれたS-Dロジックとは、それが依って立つ理論的背景及び前提がまったく異なっている。6)例えば、Kotler and Keller[2008]では「マーケターは、様々な顧客グループを包括するものとして市場という語を用いる。産業を構成する者として販売者を、市場を構成する者として購買者をみる」(pp.8-9)とされている。

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