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45中小企業支援研究 Vol.3には、生態的な環境に悪い影響を与えてはならないとするものであり、そのための消費・使用に関する情報は、企業のマーケティング活動、特に、製品開発にフィードバックされたものの、それは、より良い市場取引(交換)を実現するためのものでしかなかった。以上のことから明らかなように、伝統的マーケティングは、管理・操作の可能な4Psを駆使し、買い手であり、あくまでもマーケティングにとって努力対象である消費者とのより良い市場取引(交換)に焦点が置かれたものといえ、その理論的射程は市場取引(交換)までの範囲であった。3.新しいマーケティングの論理と領域3.1 S-DロジックとSロジックの論理このように、市場取引(交換)までをその射程に置いてきたのが米国のマーケティングといえるが、そこにおける客体はモノであった。それは、モノを作って売る製造業、より厳密にいうなら大規模消費財製造業という主体が流通及び消費に関与する理論と手法として、マーケティングが理解されてきたことからも明らかである。そして、経済におけるサービスへの関心が高まる中にあっても、モノとしてサービスを捉えようとしてきたのが、米国におけるこれまでのマーケティング研究であった。そうした中、Vargo and Luschによって示されたのが、冒頭で述べたS-Dロジックである。それは、グッズとサービシィーズを包括的に捉えるもので、ここに至ってサービスはようやくプロセスであると理解された。つまり、サービスは「他者或いは自身のための行為、プロセス、パフォーマンスを通じた専門能力(ナレッジ及びスキル)の適用」として定義される(Vargo and Lusch[2004]p.2)。若干の説明を加えるなら、S-Dロジックでいうサービシィーズとは、これまでモノとみなそうとしてきたサービスそのものであり、そうすることで、プロセスとして捉えるサービスの考え方を際立たせたと考えられる。このことは、約100年に亘る米国のマーケティング研究に極めて大きな影響を与えたといえるが、そもそも、米国のマーケティング研究がプロセスとしてのサービスに焦点をあてたことそれ自体、後述する北欧学派におけるサービス研究の影響があったと思われる。何れにせよ、このS-Dロジック及びそれにもとづく価値共創の議論で重要なことは、価値は交換後に生み出され、文脈価値として顧客によって独自に判断される、としたことであり、そこにおいて、顧客はオペラントという能動的な存在として捉えられている。それは、伝統的マーケティングが、価値は企業が決め、そして、創り出すものであるとしてきたことからすれば、極めて画期的な考え方といえる。それ故、モノのマーケティングに終始してきたマーケティング研究者を中心に、今日、世界的な議論が活発に行われている7)。しかし、S-Dロジックの指摘が、そのまま新しいマーケティングに繋がる訳ではない。また、Vargo and Luschの関心も、マネジリアルな視点というより、むしろ、交換の一般理論の構築にあると思われる。従って、彼らの指摘を踏まえつつ、新しいマーケティングの理論と手法について考えていく必要がある。これに対して、当初からサービスをプロセスとして捉えてきたのが北欧学派のマーケティング研究であり、その重鎮ともいえるGrönroosが2006年に提示したのがSロジックである。従って、北欧学派の影響を受けてS-Dロジックは生まれ、そのことを踏まえて敢えてSロジックは示されたということになる。そして、両者を端的に表現するなら、モノをサービスに寄せて考えるのがS-Dロジックであり(村松[2015a])、Sロジックは、サービスにモノを取り込む考え方といえる(Grönroos[2006])。何れにせよ、サービスの本質のひとつである「生産と消費の同時性」に注目するなら、それが意味するのは、プロセスとしてサービスを捉えることに他ならず、そこからは、企業と消費者の直接的相互作用関係がみてと7)S-Dロジックの研究者が集まるナNaples Forum on Serviceが隔年(直近では2015年)で開催されており、それに関連するものとして、わが国では、2012年に明治大学で Forum on International Markets and Institutional Logicsが開催された。

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