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46中小企業支援研究学術論文れる。つまり、サービスにとって重要なことは、この直接的相互作用ということになるが、この点、Sロジックは、それが存在する場合を価値共創と呼び、S-Dロジックにおいては、間接的相互作用も価値共創と捉えている。それでは、両者におけるこうした違いは、これまでの伝統的マーケティングとは異なる新しいマーケティングを求めるという立場からみた場合、どのようなことがいえるのか。すでにみたように、伝統的マーケティングは、主として製造業による流通及び消費への関与の理論と手法として研究されてきた。そして、そこにおいて、リサーチをはじめとする製造業によるマーケティングは、いわば離れた消費者に向けられてきたということである。つまり、消費者ニーズに合ったものを作って売るという活動において、いわば生産プロセスで最大限の消費者適合を図り、その結果として、企業にとってより良い市場取引(交換)を実現するものが、これまでのマーケティングであった。そして、この生産プロセスでの消費者適合のもっとも進んだ例としては、消費者参加型製品開発があるが、その最終的な狙いが、市場取引(交換)における不確実性を出来る限り排除するものであることはいうまでもない。言い換えれば、これまでのマーケティング研究においては、購買後の消費者に対して、消費・使用に向けたマーケティングを行うことは、その理論的前提に置かれておらず、あくまでも、マーケティングのゴールは市場取引(交換)にあった。従って、間接的な企業と顧客の関係をも価値共創として捉えるとするなら、そこにマーケティングにおける新しさは生まれない。つまり、S-Dロジックでは、製造業が自身のナレッジ・スキルを生産に適用し、顧客が自身のナレッジ・スキルを消費に適用することで価値が共創されると述べられており(Vargo,Maglio and Akaka[2008])、そこにおいては、間接的なサービス提供がなされていることになる。しかし、こうした価値共創の考え方からは新しいマーケティング行為は得られず、精々、使われ易いナレッジ・スキルを生産プロセスでモノに埋め込むことしかなく、ナレッジ・スキルを交換価値に置き換えたなら、従前のマーケティングと何ら変わらない。こうした伝統的マーケティングは、事前に企業がモノの価値を決めるという意味において、そもそも価値所与マーケティング(村松[2009])と呼ぶべきものである。むしろ、焦点を当てるべきはS-Dロジックでも述べられている直接的なサービス提供である。この点、Sロジックでは、直接的相互作用を伴う場合のみを価値共創としており、そこから、新しいマーケティングを生み出すことができる。おそらく、S-Dロジックが間接的なサービス提供に拘るのは、それが、まさにモノをサービスに寄せる考え方だからである。より端的にいうなら、そのことは、モノのマーケティングを推進してきた米国のマーケティング研究が、いまだにモノの呪縛から離れられていないこと物語っている。何れにせよ、生産と消費が同時進行するプロセスとしてのみサービスを捉え、その上で、価値共創を論じるのであれば、新たなマーケティング領域は、顧客の消費プロセスにこそ存在することになり、それは、モノでいうのであれば、市場取引(交換)後の世界ということになる。3.2 新しいマーケティングと消費プロセスへの入り込みこのように、消費プロセスに新たなマーケティング領域があるとするなら、新しいマーケティングは、そこで交わされる消費者との直接的相互作用の一翼を担うものとして捉えられることになるが、それは、マーケティングによる「消費プロセスへの入り込み」と言い表すことができる(村松[2015a])。それでは、この消費プロセスへの入り込みをマーケティング研究としてはどのように考えたら良いのか。前述の如く、S-Dロジックでは、間接的なサービス提供も含めて価値共創としており、そこから新たなマーケティングは見いだし難い。むしろ、Sロジックのように直接的なサービス提供を軸として価値共創を捉える必要がある。そうすることで、マーケティング論において企業と顧客(消費者)が「離れた関係」から「一緒の関係」となり、それがそのまま新しいマーケティング研究の糸口となる。しかし、この直接的相互作用関係を伴う一緒の関係もさらに目を凝

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