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47中小企業支援研究 Vol.3らしてみるなら、ふたつの場合が考えられる。まずは、生産プロセスでの一緒の関係である。その典型的な例は、先に述べた消費者参加型製品開発である。それは、まさに生産プロセスに消費者を取り込むことであり、その最終的な狙いは、あくまでも交換価値を高め、市場でのより良い取引(交換)を達成しようとするものである。こうした一緒に作ることを以て価値共創と呼ぶ研究者も多くいるが、本稿の立場からすれば、それは、価値共創とはいわない。価値は、モノであれば市場取引(交換)後に共創されるものであり、いわゆる交換価値ではなく、顧客が何らかの文脈のもとで判断する、あくまでも顧客にとっての価値、即ち、文脈価値のことなのである。つまり、この文脈価値は、いわば顧客の消費プロセスで共創されるのであり、賢明な企業は、そこで何らかのマーケティング行為を直接的なサービス提供という形で行うことになる。これこそが、もうひとつの一緒の関係であり、本稿でいう価値共創なのである。要するに、価値共創とは、企業による顧客の消費プロセスへの入り込みによって、顧客にとっての価値である文脈価値を一緒になって創り出すことをいう。従って、企業と顧客の一緒の関係は生産プロセスと消費プロセスの両方にみられるということになる。そして、これまでの伝統的マーケティングが焦点を当ててきたのが、市場取引(交換)までであったことを踏まえるなら、その舞台は生産プロセスにあったといえる。これに対して、伝統的マーケティングが関心を持ってこなかった消費プロセスこそが新たなマーケティングの領域であり、そこでの企業と顧客の一緒の関係を担うものこそが新しいマーケティング、即ち、価値共創を主題とするマーケティングということになる。4.4Cアプローチによる新しいマーケティング   −価値共創マーケティング4.1 価値共創マーケティングの4Cアプローチそこで本稿では、消費プロセスに入り込み、顧客との直接的相互作用を通して行う新しいマーケティングを価値共創マーケティングと呼ぶことにする。それでは、価値共創マーケティングにとってもっとも重要なことは何か。これまでの議論から明らかなことは、新しいマーケティングは、消費プロセスで企業と顧客が一緒の関係のもとで行われるということである。しかし、この一緒の関係については、さらに検討を加える必要がある。というのも、価値共創は、企業による顧客への直接的なサービス提供によって成り立つが、そこにおいては、サービスをどのように捉えるかが鍵となる。繰り返すまでもなく、サービスはプロセスであるが、企業と顧客は、与え手としての企業と受け手としての顧客という関係にある。何故なら、消費プロセスを主導するのはオペラントな顧客であり、顧客は何らかの価値をそこで創造する。そして、価値の創造にあたって、自身のナレッジ・スキルが不足する場合に、企業にそれを求めることで、価値の共創に至る。言い換えれば、顧客が企業からのサービス提供の受け手となることを決め、それに応じる意思決定を行った企業が、いわば、与え手となって顧客に直接的相互作用としてのサービスを提供することで、価値が共創されることとなり、顧客にとっての文脈価値が生まれるからである。また、モノは、企業が事前に作ることはできるが、サービスは生産と消費が同時進行するのであり、その始動は顧客によってのみ行われる。ここで、企業と顧客のこうした関係を「企業と顧客のサービス関係」という。しかし、企業は顧客をフォローする立場にあるからといって、そこに主体性がないという訳ではない。顧客にサービス提供するかどうか、より厳密にいえば、どのような顧客にどのようなサービスを提供するかは、企業の主体的な意思決定に委ねられている。モノの場合と違って、サービスは、単に事前的ではないというだけのことである。むしろ、ここで留意すべきは、顧客の消費プロセスへの入り込みは、そこが新たなビジネスの場となるということである。冒頭で述べたように、消費者の関心は、すでに所有から使用へと移っており、いつまでも、所有権の移転を内実とするビジネスが有効であるとは限らない。極端にいえば、所有権を企

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