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49中小企業支援研究 Vol.3その標準化・画一化を推進してきた。そして、モノを軸とした仕入と販売こそが小売マーケティングの真髄とされてきた。従って、価値共創マーケティングを行おうとする小売企業にとって重要なことは、もともとあった消費者との接点を活かすことにある。これまで店頭では、購買に結び付けるためのコミュニケーションが取られてきた筈であるが、実は、そこで得られた知識等が、その後の顧客の消費プロセスで、消費・使用に伴う価値の創造に役立っている可能性は極めて高い。確かに、それは消費プロセスでの同時進行的なサービス提供とはいえないが、明らかに顧客による価値の創造へと繋がっている。そして、もし、顧客の消費プロセスで、小売企業が顧客に対して直接的相互作用を施すことができれば、それは、価値共創となる。従って、モノを購買した顧客の消費プロセスに如何にして入り込むかを考えることが不可欠となる。その方法は、これまでモノに焦点を当ててきたという意味において製造企業の場合と同じと考えられるが、すでに顧客との直接的な接点があるという点において、明らかに小売企業の方が優位にある。(3)サービス企業繰り返しになるが、米国で生まれた製造企業が行うモノのマーケティングは、小売特性を打ち消すマーケティングの展開へと小売企業を導いたが、そうした考え方をもっとも強いられたのが、実はサービス企業である。何故なら、サービスの工業化という考え方のもとで、サービスをモノとして扱うことが、理論的にも実践的にもこれまでのサービス企業に求められてきたからである。しかし、本稿で示してきた、サービスをプロセスとして捉える価値共創マーケティングの立場からすれば、本来的に、もっとも先行しているのがサービス企業ということになる。何故なら、サービス企業は、顧客との直接的な接点において、生産と消費が同時進行する形でサービス提供を行うものであり、そこにおいて、相互作用的なコミュニケーションが交わされる中で、企業と顧客による共創が行われ、その結果、顧客にとっての価値である文脈価値が創り出されるからである。そして、この場合、モノはサービス企業にとってサービスを提供する際の二次的な存在となる。言い換えれば、企業と顧客のサービス関係においては、消費プロセスでの一緒の関係が先行し、その後、価値共創におけるサービス提供というマーケティング行為にあって、必要に応じて企業と顧客はモノに関わることになる。そして、そのモノへの関与は、価値共創が一層促進されることを意図し、企業と顧客による共同選択、或いは共同生産という形で行われる。ここで共同選択とは、価値共創にモノが不可欠とされた場合、既存の中からそれを一緒になって選択することであり、共同生産とは、同じく、一緒になってオーダーメイド的な共同生産を行うことである。サービス企業によるこうした意味におけるモノへの関与は、価値共創マーケティングの理論的・実践的な発展可能性の高さを示すものといえる。(4)価値共創型企業システム以上のようにみてくると、今後は、すべての企業はサービス企業として捉えるべきであることがわかる。そして、そこでのサービス提供のみに留まるのか、或いはモノの販売や生産にまで手掛けるのかは企業の意思決定に委ねられており、そうした考え方にこそ価値共創マーケティングの独自性がある。そこで本稿では、企業と顧客のサービス関係のもとで、価値共創を可能にする企業システムを価値共創型企業システムと呼ぶ(村松[2015b])。そこにおいては、サービスそれ自体が顧客との接点において行われるものの、そのことを、全体として支えていくものこそが価値共創型の企業システムということになる。従って、トップ・マネジメントのもと、すべての構成員がそうしたマーケティング・マインドを持つことが求められており、その意味で、価値共創型企業システムにおいては全社マーケティングが展開されることになる。そして、この価値共創型企業システムという視点から、あらためて製造企業、小売企業、サービス企業をみてみると、次のようなことがいえる。即ち、モノのマーケティングに依拠してきた製造企業と小売企業は、自らをそれぞれモノを作って売る企業、

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