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50中小企業支援研究学術論文モノを仕入れて売る企業として捉えるのではなく、顧客とのサービス関係を販売、そして、製造にまで逆に垂直統合した企業として理解する必要がある。一方、サービス企業にあっては、顧客とのサービス関係におけるモノの役割を明確に意識し、これまでのような狭義のサービス企業に留まるか、販売、製造にまで手掛けるかの意思決定を行う必要がある。そして、すべての企業はサービス企業であるということを、以上のように考えた時、顧客とのサービス関係を起点として、その後、販売と製造を手掛ける企業システムにまで成長した島村楽器株式会社に、本稿は強い関心を持たざるを得ない。同社は、もともと音楽教室というサービス企業からスタートしたが、その後、顧客である生徒から求められ、彼らが使う楽器の販売、さらには、製造にまで、その事業を拡げた企業であり、価値共創マーケティングを理論的・実践的に捉えていく場合には、多くの知見が得られるものと思われる8)。(5)価値共創マーケティングの理論的射程と成果最後に、価値共創マーケティングをより明確なものとするために、その理論的射程を今一度確認し、成果との関係について考える。改めるまでもなく、価値共創マーケティングの舞台は、顧客の日常或いは生活にあり、そこにおける顧客との直接的相互作用としてのマーケティングが分析及び理論構築の対象となる。そして、企業と顧客のサービス関係の如何によっては、モノへの関与がなされ、そこにおいては、伝統的マーケティングと一部連動することになる。従って、価値共創マーケティングの理論的射程は、市場を超えた顧客の日常や生活にあるといえる。そして、このことは同時に、市場を媒介とする伝統的マーケティングとは別に成果の問題を考える必要があることを意味している。それは、共創された価値との関係から見いだされるものであり、それがそのまま価値共創マーケティングの成果となる。前述したように、企業と顧客のサービス関係は、顧客によって始動されるが、そこにおいて共創された価値を顧客が評価することを以て、顧客はその終結を告げる。つまり、企業による直接的・相互作用的なサービス提供が行われ、その結果として、生み出された共創価値そのものに対する評価を顧客から得ることで、価値共創マーケティングはその成果を収めることになる。言い換えるなら、そこでの顧客による評価は、文脈価値が創り出されるに至った様々な背景(文脈)、即ち、企業によるサービス提供、それに伴うモノ、顧客の人間関係、さらには、日常や生活の場の状況といったものがその影響要因となるのであり、価値共創マーケティングを展開する企業は、今後、それらについても十分に理解していく必要がある。5.おわりにモノからサービスへと社会の重心が移っていく今日、マーケティング研究においては、そのことに対する認識が未だ十分とはいえない。本稿は、そうした問題意識のもと、プロセスとしてのサービスを基盤とする価値共創マーケティングという新しい考え方を示した。それは、伝統的マーケティングとは、明らかに分析及び理論の対象領域が異なっており、顧客の消費プロセスで行う直接的相互作用を伴うマーケティングとして特徴付けられるが、この価値共創マーケティングに関する研究は、今ようやく、その理論化に向けて大きく動き出したところにあり、解決すべき課題はあるものの、今後の飛躍的な進展が期待されている。そして、以上のことは、企業と消費者或いは顧客の関係をいわば市場を超えて捉え直そうとするものでもあり、それは、マーケティング研究の立場から新たな社会を構築する第一歩となると考えている。その意味で、今日のマーケティング研究に求められているのは、これまでのマーケティング研究から如何にして決別するかということにある。8)島村楽器株式会社の詳細については、村松・他[2015]に詳しい。

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