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中小企業金融研究の大家である村本孜教授は、2015年に3冊の研究書を刊行された。すなわち、『信用金庫論-制度論としての整理』(きんざい 2015年2月)、『元気な中小企業を育てる̶日本経済を切り拓く中小企業のイノベーター』(蒼天社出版 2015年3月)、そして本書である。このうち、本書は『元気な中小企業を育てる』での議論をより詳しく、かつ分析的に展開しているという位置づけになっている。本書は601ページに及ぶ大部の研究書であるが、その構成を紹介すると、序章に続いて、「第1章 日本型モデルとしての中小企業支援・政策システム-中小企業金融を中心にした体系化」、「第2章 中小企業憲章の制定とその意義-中小企業政策のイノベーション」、「第3章 イノベーティブな企業の育成・支援-ベンチャー・ファイナンス」、「第4章 信用補完制度の改革」、「第5章 中小企業向け融資の金融インフラの整備-電子記録債権・ABL」、「第6章 市場型間接金融を活用する中小企業金融-証券化」、「第7章 金融インフラの新たな手法としての資本性借入(DDS)-金融イノベーションの視点から」、「第8章 ソフト情報としての知的資産と統合報告」、「第9章 事業承継・事業再生の金融」という9つの章で構成されている。わが国の中小企業金融に関するこれだけの幅広い領域の諸制度について、制度創設の背景から、制度の変遷とその理由、現状の課題、さらには改革の提案まで、まさに論点を網羅している。これは類書に例のない本書の特徴である。しかも、村本教授は、研究者として先行研究を丹念に渉猟されているだけではなく、こうした施策の立案・展開に審議会や研究会を主導する立場で関与されてきたし、また2004年~2010年には中小企業基盤整備機構の副理事長として、実務側からも豊富な経験をお持ちである。本書では、随所でこうした村本教授のたぐいまれなご経歴が反映されており、通常は無味乾燥な制度の説明部分においてすら、読者は新しい発見をすることができる。非常に大部で多方面に議論が及んでいる本書をバランスよく紹介することは評者の能力を超えるので、中小企業金融を研究している評者にとって、今後の研究に特に参考になりそうだと感じた箇所をいくつか紹介することにしたい。まず、第3章では、ベンチャー資金の提供が議論されている。中小企業基盤整備機構のベンチャー投資実績のデータに基づく村本教授自身の分析結果が加わっているので、議論に厚みがある。「ベンチャー企業にとってのボトルネックとまでいわれた資金面での困難は制度的にはほぼ克服され」(p.199)たが、実際に創業が活発化しているわけではない。日本では資本市場の厚みが薄いことを前提にすれば、「間接金融の仕組みをいかにベンチャー・ファイナンスに対応させるか」(p.200)、つまり「リスク・シェアリングのスキームを工夫する」(p.201)ことが重要となる。また、金融機関には、「ベンチャー企業債権をトータルに評価して信用リスク管理とする発想」(p.203)が不可欠となっていることも指摘されている。第6章では、「リレーションシップ・バンキング、中小企業金融においても市場型間接金融の活用が必要」(p.360)であることが論じられている。「リレーションシップ・バンキングの機能がより円滑かつ金52中小企業支援研究書 評村本 孜著『中小企業支援・政策システム 金融を中心とした体系化』蒼天社出版、2015年7月発行家森 信善神戸大学経済経営研究所 教授

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