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7中小企業支援研究 Vol.3に、この未開拓な市場を開拓する能力はないということである。また、外資系企業の進出可能部分は、それらの生産する商品が中国市場向けとしては相対的に高価格ゆえに、限定性を持たざるを得ないことである。中国国内市場の未開拓部分の最大部分については、新興の民営企業群が発見し開拓し、それゆえに民営企業群が中国の産業発展を主導するということがいえる。同時に、改革開放後の中国では、近代工業に必要な経営資源が質的水準は低いが多量に存在し、必要に応じて利用可能なことも、事例からの重要な示唆である。民営企業家が未開拓な市場を発見すれば、それに必要な経営資源、技術者や機械そして部材は、豊富に安価に調達可能である。そのため、民営企業の存立余地の巨大な可能性が生じたのである。つまり、一方での開拓可能な巨大で多様な市場の存在と、他方での経営資源の容易な調達可能性故に、結果として、それを有効に開拓し活用できる民営企業主導の産業発展が生じたというのが、事例からの結論的示唆といえる。同時に、今後、あるいは今生じていることは、開拓可能な市場がより高度化し、民営企業主導の市場開拓に必要な経営資源が、より高度である必要性が高くなっていることである。計画経済下で蓄積された経営資源レベルと、その後の産業発展で中国に導入された経営資源では、対応困難な市場を開拓することに、民営企業は直面している。実際、電動自転車のブレーキには日本の唐沢製作所が開発したブレーキが応用され、唐沢製作所の現地法人の急成長の1つの柱になっている(6)。このような例に見られるように、開拓可能な市場が高度化してくるならば、開拓可能な市場の発見に長けた中国民営企業に必要とされるのは、より高度な専門的技術を必要に応じて手に入れることである。ここに、日本の中小企業の中国市場での可能性の1つが存在する。マッチングをどのように実現するか、という大きな課題は残るが。(6)唐沢製作所については、丸川知雄・駒形哲哉『発展途上国のキャッチダウン型イノベーションと日本企業の対応̶中国の電動自転車と唐沢製作所』(RIETI 、Discussion Paper Series 12-J-029、2012年)を参照した。* 本稿の議論について、より詳しくは、拙著『現代中国産業発展の研究 製造業実態調査から得た発展論理』慶應義塾大学出版会(2016年3月刊行予定)を参照して欲しい。

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