中小企業支援研究No4
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INTERVIEW工程を機械化、自動化することができます。巻き線型のCR素子の次に来るのは、薄膜型の素子だろうと考えていましたので、私と当時の工場長の2人が中心になって社外の色々な方を訪ね歩き、色々な助言を受けながら実験と失敗を繰り返しました。そして、平成2年、ついに製品化に成功し、この新しい薄膜型の素子をCRZ素子と名付けました。小坂 そういった御社の社風は、先代社長の時代から引き継がれてきた会社の遺伝子なのですね。ところで、工業用温度センサーの市場については、だいたい200億円くらいと聞いていますが、この市場は成長しているのでしょうか。林社長 率直に言って、それほど伸びてはいないと思います。しかし、センサー自体は装置等を作るうえで、なくてはならないものですので、市場がなくなることはありません。現在、当社の販売比率は、国内が85%くらいで、海外は15%くらいです。しかし、国内の半導体製造装置メーカーに納品しても、半導体製造装置メーカーが当社のセンサーを部品として使った装置を作って輸出することを考えると、製作したセンサーの半分くらいは海外にあるのではないでしょうか。海外に輸出された装置に組み込まれたセンサーのメンテナンスや修理が必要になるケースは時々ありますが、割合としては少ないです。当社のセンサーは、きちんと設計されていますので、使用条件が良い環境で使用した場合は、ほとんど故障はありませんから。小坂 そうしますと、製品のライフサイクルが長いのですね。林社長 先代社長が考案した製品が、いまだに売れているのだから確かに長いといえますね。当社がこれまで蓄積した技術が活かしやすいという点では、業界にも恵まれています。工業用温度センサーの場合、基本的にはオーダーメイドですから、既製の決まった形というものがありません。そのため、製作期間がある程度かかってしまうのですが、製品の納期はなかなか厳しくて、通常、受注から7日~10日くらいで顧客の要望する形のセンサーを製作し、納品する必要があります。これだけの短期間でセンサーを製作するには、膨大な知識やノウハウと、仕入れ先・外注先等の社外のネットワークが必要です。このような知識やノウハウは、これまでの数多くの失敗から導かれたものでして、すべてが形式知化されているわけでもないので、他の大手企業が急に同様のことを行おうとしても、おそらく難しいのではないのでしょうか?そのため、我々のような専業メーカーが生き残っていけるのです。気づかなかった「はやぶさ」プロジェクトへの参加小坂 御社の工業用温度センサーは、「はやぶさ」プロジェクトでも使われていますね。宇宙空間で使われるセンサーですから、かなり耐久性の高い製品が必要であったのではないでしょうか。林社長 実は、当社のセンサーが「はやぶさ」に使われたということは、最初は気づかなくて、注文のあったセンサーを三菱重工に納品した後、すっかり忘れていたのです。その後、「はやぶさ」が7年の航海を経て帰ってきた後に、JAXAの製作した『ドキュメント 「はやぶさ」』という小冊子を見ていたら、最後のページの『小惑星探査機「はやぶさ」プロジェクトを支えた119機関の一覧』に、他の大手企業の名前と一緒に林電工の名前があるではありませんか。これには「ええっ」と大変驚きました。もちろん、最終的には国から正式な連絡があり、内閣府で感謝状の贈呈を受けることができました。良い記念になるとともに、全社員の自信につながり、モチベーションも向上しました。小坂 社員の皆さんも大変驚かれたでしょうね。林社長 センサーというものは、このようなケースが多いのです。最初は何に使うのかわからなくて、お客様に呼ばれて製品の概要を説明した後、「何に使われるのですか。」と聞いても、「いや、今はまだ、開発中だから、ちょっと話すことができない」と言われて、後になって「ああ、そういう使い方をされたのか」って驚くことがありますね。もちろん、当初からはっきり使用目的がわかっているケースもあって、官公庁向けだと気象庁のアメダスⅰのシステム向けのセンサー等がそうでした。 ⅰ アメダス(AMeDAS:Automated Meteorological Data Acquisition System)とは、日本国内約1,300か所の気象観測所で構成される、気象庁の無人観測施設である「地域気象観測システム」の通称である29中小企業支援研究 Vol.4

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