中小企業支援研究No4
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【評論】中小企業金融の現状と課題千葉商科大学 名誉教授齊藤 壽彦2中小企業支援研究はじめに経済のグローバル化や人口の減少等、我が国における経済・社会構造の変化に伴い、中小企業の事業環境は大きく変化している。『中小企業白書』2016年版(以下『中小企業白書』と略述)に述べられているように、中小企業数は長期にわたり減少傾向にある。中小企業の景況感をみると、リーマン・ショック後に大きく落ち込んだが、その後持ち直しの動きを見せた。中小企業の経常利益はおおむね増加傾向にある。だが経常利益の増加は原油・原材料費等の低下によるところが大きく、売上げの増加を伴っていない。そのため、設備投資額はリーマン・ショック前の水準に達していない。生産年齢人口の減少を背景とした人手不足、設備の老朽化、経済のグローバル化や基本的な賃金水準の低迷の下での内需の減退、新興国経済の減速という問題に中小企業は直面している。中小企業の資金調達環境は、近年改善されてきているが、大企業や中堅企業と比較すると、それは厳しい状況にある。金融を取り巻く環境も近年大きく変化している。国内の人口は減少が続いており、今後は少子高齢化が一段と進む見通しである。将来的には国内の生産人口減少に伴い、預金、貸出ともに縮小することが予想されている。また、東京や大阪など大都市圏への企業・人口の集中が一段と進む中、地方では、金融機関同士の過当競争により、資金利ざやの低下が続いている。製造業を中心とした企業の海外進出は、国内の資金需要の低迷に拍車をかけている。銀行の収益は、従来は国内貸出が中心であったが、近年ではメガバンクは収益の3割近くを国際業務から稼ぎ出している(リッキービジネスソリューション株式会社編[2015]10ページ)。預貸金利ざやが低下する一方で、預貸率が横ばい・低下する中で、金融機関は収益を確保することが厳しい状況にある。東京商工リサーチの調査によれば、銀行114行の「2016年3月期決算 総資金利ざや」の中央値は0.17%ときわめて低く、12行は逆ざやとなっていた(「総資金利ざや」とは、貸出や有価証券で稼ぐ資金運用利回りから資金調達コストを差し引いた数値である)。地域銀行の顧客向けサービス業務(貸出・手数料ビジネス)の利益率は、2015年3月期において4割の地域銀行がマイナスであったが、2025年3月期では6割を超える地域銀行がマイナスになると予想されている(金融庁[2016c]22ページ)。こうした中で、中小企業向け融資を担当している金融機関はビジネスモデルの再構築を求められている。今後の中小企業の存続・発展と中小企業向け金融を担当する金融機関の存続・発展のために、中小企業と金融機関の取引構造の改革が大きな課題となっている。中小企業と金融機関を取り巻く環境の変化のもとで、中小企業を金融機関が支援し、それによって金融機関が収益を得るようにするためには、金融機関はどのようなことを行っていけばよいのであろうか。

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