中小企業支援研究No4
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究成果を鳥瞰する中で、前田氏の主張するMCサークル・モデルを提案している。これは、より小売業の現場のオペレーションに沿った体系としての実務への応用可能性を内包させたモデルとなっている。第3章「MCサークルにおけるオペレーション・マーケティングの重要性とその展開」では、前章で提示した概念モデルであるMCサークルの中でも、特に、顧客接触空間のオペレーション・マーケティングを中心に論を進めている。小売業の最大の特徴である顧客との接触において、諸種のオペレーション活動が詳細に検討されており、筆者が重視する売り場としての小売業のオペレーション・マーケティングの要素について提案している。さらに、小売の現場における顧客の購買行動と心理的プロセスとオペレーション・マーケティングの相関性、小売現場における顧客の買物行動に小売業がどのようにアプローチすべきかについて考察し、「消費者の購買決定プロセスと小売業のマーケティング活動」を体系的に整理している。第4章「小売オペレーション・マーケティングを統合する触媒としてのアトモスフィア」では、本書のタイトルともなっている「アトモスフィア理論」提唱の理由およびその重要性について論じている。顧客との接触空間において小売オペレーション・マーケティングを展開する上で、企業の活動と顧客を結びつけるアトモスフィアの重要性を指摘し、それが顧客の五感と、顧客の経験や慣習、習慣に基づく知性を通じて、顧客に対し小売店舗がいかなるアプローチをすべきかについて詳細に分析している。第5章「MCサークルに沿ったアトモスフェリック・マーケティングの展開」では、小売現場におけるアトモスフィアの概念を中心とした小売マーケティング・マネジメントを提示し、その理論的妥当性および実務的応用可能性につき、いくつかの事例企業を取り上げながら検証を試みている。以上、本書の章立てに従ってその内容を紹介してきたが、最後に、本書の特質を抽出すると、以下の三点にまとめることができる。第一の特徴は、アトモスフィアという従来のマーケティング研究においては取り上げられることの少なかった論点を取り上げている点である。かかる論点は、小売業研究者およびマーケティング研究者に断片的に取り上げられることはあったが体系的に取り上げられることのなかった論点である。特に、企業と消費者の接点における諸活動の重要性および消費者の感性的行動の研究の重要性に注目している点は特筆に値する。また、企業と消費者の接点を切り取るために「アトモスフィア」という同概念に注目し、それを小売マーケティング・マネジメントの体系化と関連させて論じようとした筆者の試みはこれからの小売マーケティングの研究および実務に多くの示唆を提供してくれている。第二の特徴は、上述の「アトモスフィア」理論と前田氏の主張するMCサークル(Management Concentric Circles)を融合させようとした点である。本書では、従来の製造業を中心とした4Pを基礎としたマーケティングの問題点を克服すべく、新たな視点からのマーケティングの体系化を提案するものである。さらに、大手小売業のみでなく中小小売業も視野に入れた我が国独自の小売マーケティング研究の必要性を唱え、そこに前田氏独自の視点を取り入れている点、評価に値するものといえる。第三は、文献サーベイに関するものである。本書は、これまで、体系的に整理されることの少なかった小売業研究の潮流につき、従来見過ごされていた文献も含め、膨大な文献を詳細に検討している。特にNystromの研究においては、今日まで、その内容が我が国において詳細に論じられることの少なかった中にあって、その主要文献を精査している点は小売業の研究者に貴重な情報を提供する他に類を見ない好著といえる。39中小企業支援研究 Vol.4

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