中小企業支援研究No4
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3中小企業支援研究 Vol.4この問題を考える前提条件として、本評論では、まず、みずほ総合研究所の調査や『中小企業白書』などに依拠しながら、中小企業金融の現状を事業性評価融資に注目しつつ概観しておきたい。次いで、銀行の固有業務が預金・貸出・決済業務であるけれども、資金需要が低迷している状況の下、金融機関が中小企業経営支援に乗り出さざるを得なくなっている現状について述べてみたい。そのうえで、現在当面している中小企業金融の課題を明らかにしたい。1.中小企業金融の現状(1) 中小企業の資金調達先中小企業の資金調達先を見てみよう。証券市場から資金を直接調達することが困難な中小企業にとっては、内部留保等の内部資本への依存度が高い企業を別として、金融機関からの借入の必要性が高い(『中小企業白書』309ページ)。金融機関の中小企業向け貸出の総残高は、2015年9月に254.9兆円となっている。その91.4%は都市銀行、地方銀行・第2地方銀行という国内銀行や信用金庫・信用組合などの民間銀行によるものである(みずほ総合研究所[2016a]71ページ)。地域金融機関は地域企業のライフステージに応じた融資を行っている(齊藤壽彦[2016]40-41ページ)。バブル崩壊以降から2005年にかけて、中小企業・大企業共に貸出金は大きく減少した。その後、大企業はおおむね拡大傾向にあるが、中小企業向け貸出は横ばいとなっている。高収益企業の一部は無借金企業となっていく一方で、低収益企業、企業規模が小さな企業などは資金繰りに窮している企業が少なくない(『中小企業白書』272、305ページ。みずほ総合研究所[2016a]125ページ)。(2) 中小企業の資金調達の方法中小企業の資金調達の方法について立ち入って考察してみよう。みずほ総合研究所の「中小企業の資金調達に関する調査」(2015年12月)というアンケート調査によれば、「現在、借入を受けている」方法としては、「代表者等の保証による借入」、「信用保証協会の保証付借入」、「不動産を担保とする借入」という、担保・保証付きの借入の比率が高くなっている(みずほ総合研究所[2016a]80ページ)。売掛債権・動産・知的財産を担保とする借入を受けている企業の比率は低い(みずほ総合研究所[2016a]80ページ。上原啓一[2012]28-35ページ。経済産業省知的財産政策室[2007]43-44ページ)。中小企業に融資する際に担保・保証以外に考慮している項目と、中小企業が金融機関から受ける際に担保・保証以外に考慮してほしい項目としては、中小企業、金融機関ともに「財務内容」、「事業の安定性・成長性」の項目が上位を占めている。次いで、中小企業では「返済実績・取引振り」、「営業力、既存顧客との関係」が、金融機関では「代表者の経営能力や人間性」、「会社や経営者の資産余力」のウエイトが高い(『中小企業白書』322ページ)。今後の融資手法については、企業では事業性評価に基づく融資への期待度が高い。金融機関においては、60.5%の金融機関が事業性を評価した担保・保証に拠らない貸出に取り組んでいる。金融機関における中小企業に対する事業性評価の取組は、金融機関自身にとっても具体的な効果をもたらしている(『中小企業白書』324ページ。みずほ総合研究所[2016a]125ページ。みずほ総合研究所[2016b]1ページ)。中小企業が期待している、事業性評価に基づく融資を推進していくためには、金融機関が貸出判断力を高める必要がある。このための方法として、「財務内容分析に関する教育」がほぼすべての業態の金融機関で行われている。「経営内容把握に関する教育」もかなり高い割合で取り組まれているが、都市銀行や地方銀行に比べ、信用金庫や信用組合では、やや低い割合となっている。また、業界動向や技術動向に関する「情報収集・分析を行う部署の設置」についての取組は、金融機関の規模が大きいほどよく取り組まれている。「業界・技術に関する外部専門家・機関との連携」も行われており、金融機関の規

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