中小企業支援研究No4
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4中小企業支援研究模が小さいほどよく取り組まれている(『中小企業白書』329ページ)。こうした取組を通じて担当者の目利き能力(貸出判断力)を高めることによって、金融機関と取引先との関係が強化され、既往の取引先への貸出の増加、新規取引先の獲得という効果が表れている(『中小企業白書』330-331ページ)。だが、資金調達方法として「事業性を評価した担保・保証に拠らない借入」を挙げる中小企業は、みずほ総合研究所のアンケート調査先の20.3%にとどまっている。事業性評価の取組は比較的規模の小さい企業の要望を充足できている状況にはない(みずほ総合研究所[2016b]1ページ。みずほ総合研究所[2016a]80、125、128ページ)。金融庁の企業に対するアンケート調査では、融資スタンス(担保・保証に依存しない融資等)に対する厳しい声が多かった(金融庁[2016a])。金融庁の企業に対するヒアリングを踏まえた財務局長報告では、地域銀行の取組に関する評価に関して、取引先企業の成長を目指して事業性評価に取り組んでいることを認める一方で、次のような問題点が指摘されていた。すなわち、事業性評価の実施が営業推進の色彩が強く、顧客支援の目的に適していない、事業性評価の経営方針での位置づけが十分でない、事業性評価の効果が発現するにはなお時間を要する、実態把握が表面的に留まり、経営課題の抽出・ソリューションの検討は実施していない、事業性評価シートを作成しているものの形式的で、実効性のある推進態勢は整備されていない、見出しだけのヒアリングシートや抽象的な事業性評価の手引きのみ作成している、事業性評価の把握は、一部の顧客に限定して行っている、事業性評価シートの対象・作成・活用が営業店任せで、本部の確認・管理は実施していない、ということである(金融庁[2016b])。事業性評価は財務分析(過去の数値分析)、動産・売掛金評価(現在の企業分析)のみならず、知的資産(広義)評価(将来のキャッシュフロー分析)をも行おうとするもので、事業性評価融資は経済産業省が注目していた知的資産経営を金融面からとらえるようになったものともいえる。ただし、知的財産権、知的財産を担保とする融資は事業性評価融資には含まれない。知的資産とは、目に見えにくい経営資源の総称である。知的財産権(特許権、実用新案権、著作権等)、知的財産(ブランド、営業秘密、ノウハウ等)、これら以外の知的資産(人的資産、組織力、経営理念、顧客とのネットワーク、技能等)が知的資産に含まれる。これらは企業の競争力、企業の強みの源泉となるものであり、金融機関による融資や助言を通ずる知的資産経営支援が知的資産経営にとって重要であるとされている。外部専門家を活用した知的評価書を用いて、対象企業の知的財産価値を評価する取組も行われている(村本孜[2010]68、72ページ。経済産業省知的財産政策室[2013a]、同[2013b]。帝国データバンク[2015]104ページ)。(3)返済条件の見直し金融機関から資金調達を行っている中小企業のうち、2~3割程度の企業が返済条件の見直しを受けたことがあり、そのうちの1割程度が2015年11月時点で返済条件の見直しを受けている(みずほ総合研究所[2016a]88ページ)。金融庁の「条件変更先等調査」によれば、長期条件変更先の条件変更は、元金返金猶予が多いものの、返済期限延長を伴わないものも相当数存在しており、企業の負担軽減につながる金利減免はわずかしか実施されていなかった(金融庁[2016c]32ページ)。返済条件見直し後の影響については、みずほ総合研究所のアンケ―ト調査では、「影響はない」とする企業の比率が最も高いが、従業員数5人以下の企業では、「必要なタイミングで借入できなくなった」、あるいは「必要な額を借入できなくなった」とする企業の比率が、20.1、28.0%と比較的高くなっている(みずほ総合研究所[2016a]88ページ)。

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