中小企業支援研究No4
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6中小企業支援研究による金融機関への効果については、「既往取引先の貸出案件拡大につながった」を挙げる金融機関の比率が最も高く、次いで、「既往取引シェア拡大につながった」、「不良債権の抑制に効果があった」を挙げる金融機関の比率が高かった(みずほ総合研究所[2016a]100、102ページ)。3.中小企業金融の課題(1)中小企業の資金調達上の課題中小企業の資金調達の円滑化を図るためにはさまざまな課題が残されている。まず担保・保証付融資内容の改善の必要性がある。金融機関が担保・保証に過度に依存するのは金融機関が借手企業の信用リスクに関する情報を十分に把握していないからでる。これを改めるためには中小企業の会計の質の向上を図らなければならない。金融庁は、動産(在庫品、機械)・売掛金担保融資(Asset Based Lending、ABL)の積極的活用を図ることによって中小企業等が経営改善・事業再生等を図るための資金や、新たなビジネスに挑戦するための資金の確保につながるように金融検査マニュアルの改定を行うこととした(「ABL(動産・売掛金担保融資)の積極的活用について」2013年2月5日)。(売掛金=売掛債権は広義の動産に含まれる)。ABLの活用が中小企業金融の課題の一つとなっている。これについては日本銀行金融高度化セミナー「ABLを活用するためのリスク管理」(2011年12月5日)関係資料、三菱総合研究所『動産・債権担保融資(Asset-based Lending : ABL)普及のためのモデル契約等の作成と制度的課題等の調査』(2013年2月)等を参照されたい。現在、信用保証制度の在り方が問題となっている。公的信用保証制度の存在意義はなお失われてはいない。これについては齊藤壽彦[2016a]で論じておいた。個人保証の負担が起業や事業承継などの障害になっていることから、その負担を軽減するために「経営者保証に関するガイドライン」が策定され、2014年2月から適用が開始された。金融庁はこのガイドラインの浸透・定着に取り組んでいる。近年の貸出では運転資金を長期融資で貸し出し、約定弁済を求めることが多くなっている。金融庁はこれを改めることとし、「短期継続融資」を通じた運転資金融資の円滑化を図ることとした。このため、『金融検査マニュアル 別冊 中小企業融資編』に新たな事例を追加し、正常運転資金の範囲であれば短期継続融資に問題がないことを明確にした。金融庁は、地域金融機関に担保・保証に依存してきた融資姿勢を「事業性評価に基づく融資」に転換することを求めている。事業性評価という言葉は金融庁が導入したものである。これは企業の事業実態をすべてよくとらえて融資するというものである。「金融検査マニュアル」の登場で、銀行がこのマニュアルに合致することしか行わなくなってしまったということの反省からこの概念を提起したのである(多胡秀人[2016]8ページ)。事業性評価を通じた顧客企業の成長、あるいは事業再生を通じた利ざやの改善を重視していた森信親金融庁検査局長の下で、2013年9月の「金融モニタリング基本方針」(従来の「検査基本方針」を変更)で「融資審査における事業性の重視」(14ページ)を打ち出した(橋本卓典[2016]77ページ)。金融庁は事業性評価にかかるモニタリングを開始した。金融庁は2014年1~4月に四国の複数の銀行を検査対象先に選定して、地域の企業と金融機関の関わりを調査し、地域の経済や産業を活性化するために金融機関の果たすべき役割は何か、地域金融機関が地域の持続的成長と両立するビジネスモデルをいかにして確立することができるかという点に重点をおいて、検証や議論を行った。畑中龍太郎金融庁長官によれば、融資先企業の事業性評価にフォーカスして検証を行ったのは、金融機関による貸出先企業の評価が財務データに依存し過ぎているのではないかという問題意識が金融庁にあったからである。財務データは客観的データであるが、遅行性のある過去のデータである。財務データに準拠した融資スコアリングモデルというのは過度に保守的になりがちである、同じ財務指標でも業

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