中小企業支援研究No4
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7中小企業支援研究 Vol.4種によって評価は大きく異なるはずである、と同庁は考えていた。また、金融庁には、金融機関には企業の将来にわたっての収益性についての知見が不足しているのではないかという問題意識もあった。金融機関が担保や保証へ依存し、リスクを取る貸出に慎重になっているのではないかと考えていた。商業銀行は融資先企業が行う事業面での知見をさらに高めて、当該企業の経営に資するアドバイスとファイナンスの両方を行うことによって、取引先企業が収益力を高め、銀行にとっても利益となる好循環を作り出すことが基本ではないかと金融庁は考えていたのである(畑中龍太郎[2014]8-9ページ)。事業性評価という言葉は、2014年6月24日に閣議決定された『日本再興戦略・改定2014』において、「地域金融機関等による事業性を評価する融資の促進等」として取り入れられた。この事業性評価が注目されるようになったのは、2014年9月に公表された「金融モニタリング基本方針」の中の重点施策の中に「事業性評価に基づく融資等」が位置づけられてからである(2ページ)。金融庁の『金融検査マニュアル(預金等受入金融機関に係る検査マニュアル)』(2015年11月版)の「金融円滑化編」の中小・零細企業向け融資の項目においては、「企業の技術力・販売力や経営者の資質といった定性的な情報を含む経営実態の十分な把握と債権管理に努めているか」、「事業価値を見極める融資手法をはじめ中小企業に適した資金供給手法の徹底に取り組んでいるか」というチェックポイントが挙げられている(41-42ページ)。融資の取組事例として、「経済産業省の推進する技術評価等と連携した取組み」、「特許、ブランド、組織力、顧客・取引先とのネットワーク等の非財務の定性情報評価を制度化した、知的資産経営報告書の活用」などが挙げられている(帝国データバンク[2015]153ページ)。金融庁が、金融機関が自己点検・評価、開示、対話のツールとして活用するように求めて策定・公表した「金融仲介機能のベンチマーク」(2016年9月)の中にも「事業性評価に基づく融資」という項目が含まれている。金融庁のいう事業性評価とは、金融機関が、現時点での財務データや、担保・保証にとらわれず、企業訪問や経営相談等を通じて情報を収集し、事業の内容や成長可能性などを適切に評価することをいう。金融機関が目利き能力を発揮して、融資や助言を行い、企業や産業の成長を支援するという役割を果たすことを金融庁は求め、このために事業性評価に基づく融資等を促しているのである(金融庁「円滑な資金供給の促進に向けて」)。「平成26事務年度 金融モニタリング基本方針」が金融庁から公表され、「事業性評価に基づく融資」の推進が掲げられた。事業性評価の方法についてはリッキービジネスソリューション株式会社編[2015]、中村中[2016]、中村中[2017]、竹村秀晃[2016]、鈴木健二郎[2016]12-15ページ、久保田清[2016]24-27ページ等を参照されたい。事業性評価重視の下で金融検査方式が改められることとなった。金融庁は金融検査において、立入検査における個別の資産査定を中心に、金融機関の健全性を評価してきていたが、不良債権のあぶり出しの時代は終わったと考えていた森信親氏が検査局長に就任すると、森局長の考えを取り入れて、2013年9月に公表された金融モニタリング基本方針で金融庁は小口の資産査定を原則中止することとした(橋本卓典[2016]69-77ページ。「平成25事務年度 金融モニタリング基本方針(監督・検査方針)」14ページ)。これ以降、金融モニタリングでは、大口融資のチェックとともに、金融検査は金融機関全体のリスク状況を評価し、金融機関全体の健全性や管理態勢を検証することとなった。中小零細企業に対する個別融資については、金融機関自らの判断が尊重されることとなり、金融検査の対象とはならなくなったのである。(金融庁「平成26事務年度 金融モニタリング基本方針(監督・検査方針)」2014年度9月)。中小零細企業金融に関する金融検査は金融機関が企業への資金供給という役割を適切に果たしているかどうかを検証するものとなったのである。金融機関は事業性評価の強化を迫られている。こ

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