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8中小企業支援研究なる説明を必要とする。リレーションシップバンキングは、このような担保・保証に過度に依存することなく、金融機関の情報生産力の向上に期待するものであった。しかし、2007年のサブプライム問題、2008年のリーマン・ショックとその後の中小企業金融円滑化法による貸出条件変更措置、2011年の東日本大震災といった一連の有事とそれへの対応は、公的信用保証への依存を強める結果となり、金融機関の信用調査も失われたままであった。いわゆるlazy bank仮説の当て嵌る状況であった。 このような状況について、近藤[2015]は、金融円滑化法・公的信用保証制度・公的資金注入という中小企業金融に関する公的関与・政府関与の効果を分析した。公的信用保証制度については、①公的信用保証がプロパー貸出に対して補完的効果を持つとは言えず、むしろ代替的である可能性もあること。公的信用保証は金融機関の情報生産を怠らせたり、旧債振替のようなモラル・ハザードを生んでいる可能性があること、②公的信用保証はプロパー貸出と補完的であるとは言えないものの、金融機関のリレーションシップバンキング機能やメインバンク機能を増進することによって、貸出を増やす効果を持ち得ること、③公的信用保証は倒産を抑制する可能性があるが、新規開業を促進する効果があるかどうかは明らかではないこと。特に金融危機時にはその効果が大きくなる可能性があること。 これらの結果の背景には、日本で設けられた条件の緩い公的信用保証が、貸手や借手のモラル・ハザードを通じて利用が増え、存続不可能な企業にまで行き渡った結果、そうした非効率企業の存在が地域経済の非効率を生じさせ、倒産を増やし新規開業を阻害している可能性が考えられる、とした。10 このように、lazy bank仮説の妥当性を近藤[2015]は指摘した。この背景には、中小企業金融の退潮に対する各種ステークホルダーの要求による公的支援のほかなどの種々の要因もあるが、lazy bank 化し劣化した金融機関の審査能力すなわち信用調査・企業調査という金融機関の情報生産にとって不可欠な要素が放棄ないし無視・形骸化されたことも一因であると考えられよう。114.むすび 事業性評価がリレーションシップバンキングのコンテクストで理解でき、近年突然登場したわけではないこと、むしろ長きに亘って取り組まれているテーマであることを指摘した。金融機関をlazy bankにしないよう、企業と向き合い・寄り添うことこそ事業性評価だと考えるからでもある。 この点で、信用補完制度はlazy bankに陥らせる劇薬であるが、金融機関と保証協会のリスク・シェアリングの徹底により、中小企業本位の制度として活用すべきである。その際、事業性評価をいかに活かすかが重要となろう。 2016および2017事務年度「金融行政方針」は、金融庁が、金融機関に対し担保・保証に過度に依存することなく、取引先企業の事業の内容や成長可能性等を適切に評価(事業性評価)するよう促して、とりわけわが国のGDPの7割強を占めるサービス業については総じて生産性向上の余地が大きく、金融機関が事業性評価を通じて、企業に有益なアドバイスとファイナンスを行ない、顧客の企業価値の向上を実現することは可能であること、この企業価値の向上は、経済の発展や従業員の賃金上昇による生活の安定に貢献するものであり、結果として金融機関自らの経営の持続性・安定性にも寄与すると考えられるとし、このような顧客との「共通価値の創造」こそ重要と指摘したことを、熟読玩味すべきであろう。 金融庁が2017年10月に地方銀行協会と第2地方銀行協会で行なった意見交換会において、「金融庁では、これまで、持続可能なビジネスモデルの構築の必要性を繰り返し述べてきた。これに対し、「ビジネスモデルは経営の判断事項であり、そこまで当局が口出しするのか」といった批判を耳にすることがあるが、ビジネスモデルが持続的でないことが、健全性の問題とも密接に関係するところまで来ている銀行が増えてきている。それらの銀行については、10 公的信用保証については、1998年度から2010年度までの13年間の都道府県のパネル・データによる推計を行なった結果である。近藤[2015]は日本の公的信用保証は緩い制度なので、貸手・借手ともにモラル・ハザードをもたらし、存続不可能な企業にまで行き渡ったため、このような非効率企業を存続させ、地域経済の非効率を生じさせ、倒産増加・新規開業の阻害なども可能性(p.75)と指摘したが、いわゆるゾンビ企業仮説を支持しているといえよう。OECDの「2015年対日審査報告書」では、「寛容な政府保証が再編を遅らせ、いわゆる「ゾンビ」企業を温存する(Caballero et al., 2008)」と指摘したが、この点で同じである。11 近藤[2015]の分析は優れたものであるが、公的信用保証については、2007年から責任共有制度が導入され部分保証になった点が十分反映されていない感がある。すなわち、100%保証であれば完全なlazy bankであるが、80%保証の場合には金融機関の期中モニタリングも有効であること(部分的なlazy bank)、また保証付き融資とプロパー融資はセットで行なわれるケースも多いので、やや分析的には画一的になっているといえよう。少なくとも、責任共有制度は導入時に保証承諾額の38%程度だったが、2011年には52%となり、14年には87%になっているので、13年間の推計のうちの終盤部分については若干の留保が必要であろう。この点で、直近までの推計がなされることが必要である。

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