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事例報告 …………………………………………千葉商科大学経済研究所客員研究員中小企業診断士村山賢誌■はじめにフィンテック等の金融技術の進展が顕著な昨今、金融機関は自らの存続のため、事業性評価への取組みを推進すべきであろうが、現実問題として、そのような余裕を失っている時代の変遷も感じている。地域経済を支える機能でもある金融機関には、存在意義の発揮に努めていただきたいとの思いを交えながら報告を進めていきたい。また、事業性評価の推進自体は好ましいことと評価しているが、「実際の浸透状況は如何に?」を解明していくことが、本日、私に与えられたテーマである。■信用リスクと事業性評価について従来、金融機関は中小企業から担保の提供を受けリスクの軽減を図ってきたが、今後、その経営資源(知的資産や事業性を含む)の活用や成長への支援が、結果的に事業性の維持・改善に繋がり、業績向上に資するものとなろう。このような施策に取組むことが、中小企業にとっても金融機関にとっても望ましい方向であり、双方の緊密な連携に基づく支援の実行がポイントとなる。すなわち、①中小企業白書における廃業やM&A(業績が思わしくない場合)を促すことへの言及、②ローカルベンチマークによる自社の経営の見直し(金融機関側でも数値の理解が可能)、③各種補助金申請時の経営力向上計画等事業計画作成の推進、をもって、金融機関の事業性評価の取組みを促進・支援する制度の充実が図られ、支援環境は改善しつつある。その一方で、連携の促進に対して市場の縮小(中小企業数の減少)に直面していることから、金融機関には支援制度を活用した積極的な取組みが求められる。また、これまでは金融機関や信用保証協会だけが保有していたデータが、CRD協会のデータの活用によって企業側でも自らの格付けが分かるようになった。データ入手料が高く普及段階には至ってないが、共通言語になる可能性はある。場合によってはフィンテックが代替することもあろうが、このように金融機関の事業性評価を支援する環境の整備が進展している。■事業性評価に向けての課題と融資の判断中小企業と金融機関の関係において、積み重ねられてきたリレーションシップバンキングや地域密着型金融、すなわち、事業性評価というものが、ある程度定着してきたと推察される。ただし、企業経営は山あり谷ありで、谷のとき(≒業績不振や経営危機等)に、事業性評価を踏まえた支援の実行可能性が問われよう。ところが、近年、地域金融機関(信金・信組)による経営改善・事業再生に向けた支援の取組みは漸減傾向である。しかし、依然として1,500以上の件数が継続していることから、支援の進展、もしくは支援ノウハウの蓄積とも思料され、確定的な評価には至らず、今後の金融機関による対応を見極めるべきである。その解を、長期的な支援による安定経営が見込まれるにもかかわらず、金融機関の仕組みにおいて短期間での返済を迫られることから、業績が安定し得ない企業・事業の再生に向かえない企業へのあるべき支援の実践に求めたい。なお、金融機関の債務保証への依存度は高位で推移している現状がある一方、担保に関しては、信用保証協会のあり方をより望ましい方向に促すことができれば、共通価値の創造という発展的な取組みと、その定着が図られるものと考える。よって、金融機関と信用保証協会の関係性について、決して疎遠になる必要はなく適宜判断して活用し、支援取組機関として双方の機能を補完しつつ、中小企業の支援ができればよいのである。あるべき論だが、事業性は見込めるものの、信用性の低さから高いリスクを抱えていると評価された中小企業に対して融資するという「理想の方向」に進んでいけるのか。ここに、今後の金融機関存続への行方が垣間見えてくるだろう。とくに、金融機関による中小企業への支援は、厳しい選別競争に突入しており、この急流に乗り遅れると消滅してしまう金融機関が出てくるとも限らない。したがって、金融機関と信用保証協会との問題に対して、保証割合に関わらず保証承諾されないことを理由とした融資拒絶の姿勢を改める必要がある。さらに、金融機関は中小企業の経営改善の取組みに向けて、長期貸付を是認する必要がある。これら施策のうえ事業性評価の定着が見込まれよう。■事例紹介「事業性評価は難しい…」【事例①】ある飲食店Cは、代表本人とアルバイトという運営体制の制約による販促活動の不足もあり売上低下を招くも、問題点を認識して飲食専門のコンサル会社と契約のうえ販促準備を整えた。しか14中小企業支援研究

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