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時事解説緒 言日本は第二次世界大戦で疲弊した経済体制の早期強化を図るため、医学用語であるダイアグノーシス(diagnosis)を「経営診断」と直訳し、爾来70年間にわたり中小企業指導政策の基本用語として用いているが、経営診断の意味を正確に理解しているのは関係者を除き限られている状況にある。日本経営診断学会は、大学教授、民間企業人等を会員とし、毎年年次大会を開催して、経営診断の基礎理論と実践技術との研究成果を発表しているが、2017年度は、学会創設50年記念に当たり、過去の経過を振り返り、将来を展望して特別講演を行うよう実行委員会から要請があった。そこで経営環境の激変に対応して、コンピューター・サイエンスやサービス・サイエンスが、国際的に公式用語となっていることに鑑み、当学会も創設時の「ダイアグノーシス」から「コンサルティング・サイエンス」へと進化した発想の構築を図るべきであると考え、提言することとする。先行研究2008年日本学術会議はその存立基盤として「社会に役立つ科学」を目指すべきであるとし、そのために認識科学と設計科学との「智の統合」を図るべきであると宣言した。当学会は既に、2007年に「理論と実践の融合」をキャッチフレーズとし、激変する将来の経営環境に対応する経営体を支援する科学であることを明確に位置付けている。このような方向を採択するに至ったのは、急速な経営環境の激変が次のような要因によりもたらされ、それに科学的に対応するためには、従来とは全く異なる革新的な思考方法の確立が必要となったからであると考えなければならない。第一にベルリンの壁崩壊により、東西冷戦が終結し、世界が渇望した平和を実現したが、戦争の過剰浪費の終焉による相対的な供給過剰が世界経済の問題点として浮上した。第二に先進国における出生率の低下と発展途上国・新興国の人口増加により、国際的な経済格差が明らかとなった。第三に人類の経済活動の活性化に伴い、地球環境の自然浄化力を超える環境負荷が発生し、異常気象、生態系の激変、資源の枯渇等の自然環境の猛威をもたらすこととなった。第四にICT(情報通信技術)の進化による情報量の増大、IoT(モノのインターネット)の普及等が2045年に人知を超えるAI(人工頭脳)の出現する「シンギュラリティ」に達する年度となるものと指摘されることとなった。第五に今後の社会は「断絶」ともいうべき激変を遂げ、帰納法、演繹法、アメリカのシンクタンク「ランドコーポレーション」の開発した「デルファイ法」等の発想を超える、省エネ自動運転車、情報サイバーテロ、通貨無きフィンテック、遺伝子操作・人工臓器等による人命の無限性等の新技術が続出し、社会経済構造の変革の加速が明らかとなった。これらの構造的な瞬時変革に対応するために、「総合科学の粋」を目指してきた当学会も新たなパラダコンサルティング・サイエンスの確立新井 信裕日本経営診断学会顧問元社団法人中小企業診断協会会長アイ・コンサルティング協同組合代表理事20中小企業支援研究

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