2019_RSS webbook
14/64

調査報告  ………………………………………………日本政策金融公庫総合研究所 主席研究員 井上考二氏■廃業時における経営資源譲り渡しの可能性本日の報告の趣旨は、経営資源の譲り渡しにより廃業時の課題解決を企図するものである。経営者の引退時の選択肢には、①承継、②M&A、そして③廃業があるが、廃業時の課題(割合)は、①取引先との関係清算、②事業資産の売却、③従業員の雇用先確保等は高いが、意外にも④個人保証/連帯保証の問題は相対的に低い(2014年版中小企業白書)。よって、廃業による影響を緩和する等の課題を解決する支援策が求められる。その手懸りとして、当研究所編の2017年版新規開業白書や研究員論文(深沼・井上(2006))を概観し、以下事項を確認した。【①経営資源を譲り受けて開業する企業】・ 部門の廃止や倒産・廃業により消滅してしまう事業を、元従業員が「再利用可能な経営資源を活用して」事実上再生・ 14.9%の新規開業企業が、倒産・廃業(見込含む)企業から「何らかの経営資源を譲り受け」開業・ 譲り受けた経営資源は、機械・車両等設備、仕入先・外注先、販売先・受注先、従業員等【②廃業時に取引ネットワークを譲り渡す企業】・ 従業員数20人以下程度の小規模企業では、経営者が引退すると廃業するケースが多数・ M&Aで事業全体を譲り渡すのではなく、販売先、受注先、仕入先、外注先等の外部の企業や消費者との「取引ネットワークを同業者や従業員に意識的に引継がせる」つまり、廃業時に経営資源を譲り渡す企業が一定程度存在し、その増加を促進させることが、廃業による影響緩和に資する可能性が高いと思料される。■経営資源譲り渡しに関するアンケート調査結果2017年1月、当研究所において、上表タイトルの通り、事前調査と詳細調査の二段階アンケートを実施し、以下に調査結果を整理した。①経営資源の譲り渡しは少なからず行われている・廃業企業の3割は経営資源を譲り渡している。② 企業の属性や経営資源の内容によって譲り渡しの行われやすさ(割合)は異なる・ 最も割合が高い業種は卸売業(40.9%)、最も割合が低い業種は教育・学習支援業(10.7%)である。・従業員規模の大きい企業は譲り渡し割合が高い。・事業所が自宅兼用の場合は譲り渡し割合が低い。③譲り渡しは円滑な廃業を促すうえで有用である・譲り渡し企業の45.1%が満足している。④譲り渡しは広く認知されているとはいえない・ 抵抗感や必要な制度について「わからない」という回答が一定数存在している。これは、譲り渡しの相談相手の質問で、「家族・親族」が最も多く(36.8%)、「誰にも相談せず」も約3割(29.2%)存在し、各支援機関への相談割合も総じて低い割合に留まることからも推察できよう。■譲り渡しを促進するための支援策経営資源の譲り渡しは、現在、必ずしも一般的な取組みとはいえないが、従業員雇用や取引先関係の維持に資する等、廃業時に直面する課題解決の手段には成り得る。経営者の高齢化が進展し、高齢を理由とした廃業の増加が想定される中、その重要性は今後高まっていくものと推測される。以上、調査報告の纏めとしたい。12中小企業支援研究

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

page 14

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です