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止められない現状も相当数あろう。そのような支援先に対しては、効果的アプローチを試みる必要がある。例えば、予め、①雇用従業員の(同業)他社への移籍、②取引先に対する事業閉鎖見込の告知→他社取引の随時移管許諾、③取引先に対する事業閉鎖後の引継先の告知、これらプロセス(約束事)を踏んで身軽な家族経営の形態を整え、何時でも事業を止められる状態にしておく、というような方策は検討の余地があると考える。山川 M&A仲介業者の視点から申し上げれば、中小企業庁の統計によれば、親族外承継の一手法であるM&Aは、20年前の全体比2%から直近の20%程にまで増加していることは、事業戦略として浸透している証左なのではないか。本日のシンポジウムのような機会を通じてM&Aの有効性を訴求し、事業承継ネットワーク等の活用を促進していきたい。鈴木 事業承継におけるM&A活用の促進策は? 事例報告の補足をいただきたい。梅澤 支援機関や専門家の皆さまには、関与先に対して、M&Aは「買収」等のネガティブなイメージのものとは全く異なり、「事業承継の一つの方法論」であることを徹底して告知いただきたい。監物 M&A実行経験者の視点から申し上げれば、大きなリスク(①後継者不在、②健康不安、③自らの年齢(M&A決意時66歳(現在71歳))に直面して初めて、事業承継やM&Aに早急に取組むことの重要性を認識した。経営者に何らかの「支障」が生じ、事業継続が困難になり廃業という選択をする前に、事業を承継する手立て(=M&Aは有力な手段/従業員承継も検討したが実際には相当困難)を講ずる必要がある。「生涯現役」を志す経営者の方にも、高齢になったら健康なうちに、事業承継を意識して対応されることを望みたい。山川 M&Aによる事業承継には、①従業員は雇用を確保され会社は安定を維持、②オーナーは株式売却等の利益(現金)を獲得、③シナジー効果による業績向上の可能性の享受等、様々なメリットがある。なお、M&A仲介業者は増加しており、その選定は困難と思われるが、M&Aの成約実績やセンター等公的機関との連携体制の構築に基づく信頼性の有無、さらには、手数料等の報酬体系の内容を精査して決定されることが大事であろう。鈴木 中小企業の事業承継やM&Aを生産性向上に活用する戦略的視点を、事業を譲り受ける側の視点から教示いただきたい。魚路 現状、M&Aに関する企業の情報割合は、譲り受け7割⇔譲り渡し3割で、本来この割合は逆であるべきであり、そこに課題があるはずである。その課題とは、本日の報告でも一貫して申し上げたが、『自分ごとで考える』と『(第Ⅲ象限に)潜在化している中小企業に働きかけて(第Ⅱ象限に)顕在化させる』ことができなければ、譲り渡し企業は増加しない。その課題解決のためにも、日頃からの『対話』が重要なのである。その成果として(金融機関等の支援機関から)譲り受けを希望する企業には、譲り渡しを希望する企業の様々な情報が提供され、その中からM&Aが成約に至れば、自社の成長戦略や生産性向上に直結し、ひいては、より強い企業が誕生して地域経済の活性化にも寄与するだろう。梅澤 千葉県では、譲り渡し相談企業が約35%≒譲り受け相談企業が約40%という望ましい状況である。また、M&Aは譲り受け企業にとっては「企業戦略」であり、「お金で時を買う」ようなものである。【譲り受け希望企業からの相談事例】① 不動産管理業G社:約4,000件の管理物件あり。原状回復に係る修繕は外注していたが、リフォーム会社を買収し内製化によるコスト削減を実現。② 総合コンサル業H社:シルバービジネスに注力。相続等の相談内容には居宅老朽化の問題も多いことから、建築会社を買収し既存業務である税務・法務を含めたシルバーに関する全体支援を実現。これら事例が示している通り、譲り受け企業には、何らかの「考え方(=戦略)」がなければ、生産性向上の実現は困難であろう。【②会場の参加者との質疑応答】質問 廃業時の経営資源(設備や従業員等)を「譲り受けた」企業の解析も要望したい。すなわち、ベストプラクティス発信のシステム化は、生産性向上や事業承継の活性化が期待できるのでは? 井上 調査報告と同じタイミングで「経営資源の譲り受けに関するアンケート」も実施している。結果としては、「譲り受けて良かった」との回答が相当数を占め、譲り受けて開業した企業のパフォーマンス向上に寄与している傾向が確認された。一方、「譲り渡した」企業としては、不知の相手に譲り渡したくない、従業員の雇用は本当に維持されるのか、といった懸念や心配があり、信頼できる相手先に譲り渡したいとの思いがある。そのような観点を踏まえて生産性の向上を図るには、良好な関係性の構築等のプロセスを経たうえで譲り受ける、もしく15中小企業支援研究 Vol.6

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