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巻頭言わが国の中小企業は380万社(2014年経済センサス)と全企業の99.7%を占め、従業者数においても約7割を占めるなど、日本経済の活力と雇用の維持に大きな影響力を有しているが、近年、企業数、従業者数とも減少傾向にある。このため国は、中小企業施策の整備拡充を行ってきた。2013年の中小企業基本法の改正において、小規模企業活性化法が施行され、中小企業の中でも約85%を占める小規模企業者に対するきめ細かな支援体制が整備された。2016年には、中小企業等経営強化法が創業、経営革新など中小企業の経営力向上と支援を目的に施行された。しかしながら、日本の中小企業の生産性は米国などの上位国に遠く及ばず、OECD加盟国35カ国の22位(日本生産性本部「労働生産性の国際比較2017年版」)にとどまっている。中小企業の生産性は大企業よりさらに低いことからも、生産性の向上は喫緊の課題といえる。筆者は、本学大学院中小企業診断士養成コースにおいて、製造業の企業実習を担当している。この実習では、大学院生とともに製造現場に入り込み現状分析から課題を洗い出し、提言内容を経営診断報告書としてまとめ上げる、といった一連の作業を行う。経営者に対し診断希望項目を尋ねると、「生産性を上げるにはどうしたらよいか」という質問が返ってくる。2018年版中小企業白書においては、生産性向上のための取組みとして、①業務プロセスの見直し、②人材活用面の工夫、③IT導入と先端技術の活用―の3点が挙げられており、私自身の現場指導体験を踏まえて考えてみたい。 1)業務プロセスの見直しは、IE手法の活用と現場の環境整備が基本業務見直しの具体的取組みとして、業務の標準化、マニュアル化を目指し、IE(Industrial Engineering)手法による動作分析や作業時間の測定などを実施することで、生産数量と稼働時間の見える化が図られる。一方、現場における生産管理の基本とは、5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)による環境整備を指す。トヨタのカンバン方式として有名なジャストインタイムは、この環境整備抜きには実現不可能といえる。 2)人材活用面の取組みは多能工化・兼任化、多様な人材の活用から多品種少量生産の受注形態の多い中小製造業にとっては、採用難により従業員を増やすことが困難である。このため多能工化・兼任化により工程間の業務量の平準化と従業員の能力向上を図るべきである。多様な人材活用が求められている中で、これまで労働参加の低い女性や技術を持ったシニアの採用なども積極的に取り組むべき課題といえる。 3)IT導入と先端技術の利活用は、業務領域間の機能連携から中小製造業におけるIT活用は、財務・会計領域から始まって、人事労務、顧客管理、在庫管理、受発注など業務領域間の機能連携による総合ITソフトの構築が求められている。これからの中小企業では、AI、ロボット技術、ビッグデータなど先端技術の導入が期待される。経営力の向上を図り業績を上げている中小製造業においては、経営革新計画の策定、ものづくり補助金の活用により、計画的な設備投資を行っている。非製造業の中小企業においても、厳しい経営環境の中で行政機関の施策である創業、新連携、農商工等連携、事業承継、地域の活性化など各種支援策を活用しながら維持発展に努めている。当機構では、時宜にかなったシンポジウムの開催、機関誌『中小企業支援研究』における経営アーカイブの蓄積、大学研究所でなければできない中小企業の理論的な研究、地域活性化支援など、これからも幅広い活動を行うため研鑽を積み、中小企業の明るい未来のために貢献したいと考えている。千葉商科大学経済研究所 中小企業研究・支援機構運営委員商学研究科客員教授(中小企業診断士養成コース担当) 大塚 愼二 中小企業における生産性の向上と支援策1中小企業支援研究 Vol.6

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