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CSR(企業の社会的責任)・SDGs(持続可能な開発目標)と中小企業藤野 洋一般財団法人商工総合研究所主任研究員中小企業へのCSR(企業の社会的責任)の普及は、2012年に発行された国際規格ISO26000(社会的責任)の策定時から課題となっていた。近年、「持続可能な開発目標(SDGs)」の策定やISO20400(持続可能な調達)の発行等、中小企業へのCSRの普及に影響を及ぼす動きが起きている。そこで、本稿では、CSR・SDGsの基本的事項と最近の動向等を概観した後、持続可能な調達やCSR・SDGsに取組む中小企業、及び中小企業を支援する多様なステークホルダーのケーススタディを通じて、中小企業がCSR・SDGsに取組む際の視点を論じる1。1.CSRの基本的事項CSRの基本理念は「トリプルボトムライン(経済・環境・社会を並立させる企業活動)」と「多様なステークホルダーの利益の尊重」である。後者を促す仕組みが環境・社会面の課題に対処するために複数のステークホルダーが平等な立場で合意形成等のプロセスを通じて連携して企業を支援する「マルチステークホルダー・アプローチ(MSA)」である。CSRは法令が要求する最低水準を超えて企業が環境・社会に貢献することに対する「倫理的な責任」である。このため、実効性確保の方策として、納入先との関係維持等のために遵守される各種の規格・規則・行動規範等が開発・運用されている。代表例がISO26000(社会的責任:SR)であり、その他に業種別、あるいは財・サービス別の規格等も多数運用されている。2.最近の動向近年、CSRの最低水準を引き上げる国際的協定・法令の制定が目立っている。例えば、パリ協定(2015年)が国連で採択され、温室効果ガスの排出削減の目標設定が決まった。また、英国やフランスでは、生産・調達活動を海外で行う国内企業にサプライヤーの人権保護の状況の調査と報告を要求する法律が制定されている。加えて、ESG投資(環境(E)・社会(S)・ガバナンス(G)の三要素を評価する投資)とGRIサステナビリティ・レポーティング・スタンダード等に準拠する非財務報告が普及しつつあり、主に株式公開会社にCSRの充実へのインセンティブを付与している。 3.SDGsと中小企業のCSRさらに、CSRに大きなインパクトを及ぼしているのが2015年に国連で採択されたSDGsである。これはCSRの取組としても重要な17の目標(大項目)と169のターゲット(小項目)で構成されており、2030年までに、貧困や飢餓、エネルギー、気候変動、平和的社会など、持続可能な開発のための諸目標の達成に向けて努力することを全加盟国の目標としている。日本では、2016年に「持続可能な開発目標(SDGs)実施指針」が策定されたほか、2017年には「ジャパンSDGsアワード」(SDGsへの取組で先進的な企業・教育機関等の組織に対する顕彰)の実施、2018年に1 本稿の原論文は、「CSR(企業の社会的責任)・SDGs(持続可能な開発目標)と中小企業-ケーススタディにみる持続可能な調達とマルチステークホルダー・アプローチ-」(商工金融2018年12月号掲載)である。ケーススタディの詳細と本稿で割愛したソーシャルビジネスに関する議論等については、原論文を参照されたい。調査報告35中小企業支援研究 Vol.6

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