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調査報告は「SDGs未来都市」(SDGsに先駆的に取り組んでいる自治体)の選定等が行われた 。さらに、2018年には中小企業向けの「持続可能な開発目標(SDGs)活用ガイド」も発行された。ただ、中小企業へのCSRの普及は、資金や知識といった経営資源の不足から、大企業に比べると進んでいない。一方、大企業ではサプライヤー(中小企業が少なくない)が行うCSRへの関与が経営課題になっている。その手段として「持続可能な調達」に取組む必要性が高まっている。4.「持続可能な調達」の中小企業   へのインパクトサプライチェーン経由で調達活動を行う大企業は、サプライヤーが環境保護や労働者の人権への配慮等、CSRの履行状況を監査やアンケート等で評価し、サプライヤーに是正・改善を指導し、取引条件の変更の要否を判断している。このような調達のスタイルを「CSR調達」、あるいは「持続可能な調達」と言う。欧米では、著しくCSRの理念に反する行為を行うサプライヤーが販売先から取引を打ち切られ経営に深刻な影響を被ることもあるため、持続可能な調達は中小企業にCSRへの取組を促す効果を持つ。2017年にはISO20400(持続可能な調達)が発行され、世界各国のグローバル企業に持続可能な調達の体制構築を促すドライバーになるとみられる。また、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会で導入されている「持続可能性に配慮した調達コード」を契機として、欧州では既に一般化しつつある公共部門での持続可能な調達の普及が、日本でも企図されている。持続可能な調達は一種のMSAであり、それへの対応の巧拙が、今後中小企業の経営に重要な意味を持つと考えられる。5.ケーススタディ5.1 中小企業のCSRに対する労働組合の支援(事例1)熊谷 謙一氏(日本ILO協議会・企画委員)労働組合がCSRに関与する方法として「労使協議」(従業員と経営者が協力するための対話の場)が重要である。加えて、連合が「サプライチェーン全体で生み出した付加価値の適正分配」を春闘の方針としていることから、大企業の労働組合でも中小サプライヤーへのCSRの普及に対する認識が高まっている。このため、労働組合も関与する形で、大企業のCSR担当部署あるいは調達部署と中小企業の連携が進展しつつある。労働組合がMSAの結節点となり、中小企業と販売先(大企業や消費者)の間での連携の構築に寄与しうる。5.2 持続可能な調達(事例2)日本電気株式会社(NEC) NECは、「持続可能な調達」を通じたサプライヤーとのコラボレーションにより、相互の信頼関係を高め、社会価値を共創することを調達の基本方針としている。具体的には、「CSR調達ガイドライン」の遵守に対する承諾をサプライヤーから得ている。CSR等に関する監査権限も保持しており、当社の事業に対する重要度に応じて、現地監査あるいは書面確認を行っている。この監査等の結果をフィードバックし改善を指導している(ただし、情報セキュリティについては迅速な改善を全サプライヤーに求めている)。(事例3)味の素株式会社「サプライヤー全体でともに学び、ともに強くなる」ことをCSR調達の基本方針として、サプライヤーに自己診断を要請し結果のフィードバックを通じて継続的に改善を促している。ただ、日本では、持続可能な調達に関する規格への準拠が認証されている製品・商品への消費者のニーズが低い。また、技能実習生に対する受入企業(中小企業が多い)の人権侵害が海外で問題視されている。今後、ESG投資家等からの圧力で、大企業が中小サプライヤーに人権保護を含むCSRに適正に取組むように要求する可能性がある。また、東京オリンピック・パラリンピックが公共部門での持続可能な調達の先駆けとなり、CSRへの中小企業の認識を向上させる可能性もある。36中小企業支援研究

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