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環境に配慮した個別・集合住宅の建設促進に取組んでおり、これらでは中小企業に環境面でのCSRに取組むインセンティブを付与する。社会面では、安心して住み続けられる地域コミュニティの形成が課題あり、賃貸事業者に高気密・高断熱の質の高い住宅を建設するインセンティブを付与している。これらを通じて、中小企業が無理なくCSRに取組める環境を整備し、町のブランド価値を高めたい。(事例10)横浜型地域貢献企業支援制度本制度は、横浜市内の企業に「地域を志向するCSR」(地域CSR)への取組を盛り上げる必要があるとの機運が高まったため、横浜市と公益財団法人横浜企業経営支援財団(IDEC)が実施主体となり2007年度に創設された(図表2)。認定企業(2017年度末時点で459社)に対しては、情報提供、資金調達や公共調達に関する優遇措置等を支援策として設けている。制度の効果として、信用度の向上、CSRの必要性に対する従業員の気づき、会社の強み・課題の社内での共有等につながったとする認定企業が多く、採用面での好影響も見られている。制度の宣伝強化に対する要望が強かったため、制度10周年の2017年に「プレミアム企業」2社を選定し表彰した。(事例11) 吉田 正博氏(一般社団法人永続的成長企業ネットワーク代表理事)私は中小規模の企業を活動範囲がローカルな『地域企業』とグローバルな『中小企業』に分類している。『地域企業』・『中小企業』は、地域CSRを通じて全てのステークホルダーに便益をもたらし、自社の永続性を高める必要がある。『地域企業』はリサイクル、地域での清掃、祭事への寄付等の地道な地域CSRで、環境保護と社会に貢献している。一方、グローバルに活動する『中小企業』や大企業のサプライチェーンに属している『中小企業』は大企業版のCSRに歩調を合わせる必要がある。地域CSRの普及には、税理士や社会保険労務士等が顧問先企業に「気づき」をもたらす必要があり、自治体・公的機関等とも連携して、『地域企業』・『中小企業』への地域CSRの普及活動の結節点となることを目指している。6.中小企業がCSR・SDGsに 取組むための視点「持続可能な調達」を課題とする大企業が中小サプライヤーに対するCSR監査を行っている 。このため、中小サプライヤーは自社のCSRへの信頼を確保することが経営課題になりつつある。既に、販売先からCSR監査を受けるとともに、サプライヤーに対してCSR監査を行っている中小企業も現れている。先進的な中小企業ではCSR・SDGsを経営戦略に統合(一体化)して社会課題を緩和・解消するビジネスを先駆的に行っており、新商品・新市場の開発などのビジネスチャンスの獲得、従業員の動機づけ等を通じて業績にも好影響がみられている。加えて、販売先大企業が取組む持続可能な調達の一翼を中小企業が担う上で、CSRに関連の深い規格等(FSC、GAP、RSPO)の認証の取得によって、社外からの信頼を確保しブランド戦略・マーケティング戦略として経営の高度化に活かしている。このように、CSRを「コスト」とみるだけでなく、マーケティング、人材確保等に寄与する「投資」と位置づけて積極的に取組む必要性が高まっている。また、先進的企業は行政・公的機関や非営利組織からの支援を活用しており、中小企業がCSRに取組む上でマルチステークホルダーからの支援(MSA)が重要性である。具体的には、行政・公的機関からの経済的支援(補助金や公共事業の受注機会の増加等) や非営利組織からの能力形成の支援を活用することを検討すべきであろう。最後に、中小企業へのCSRの普及に対する今後の課題として、中小企業と関わりの深いステークホルダーが行う支援の高度化の重要性を指摘しておく。具体的には、①商工会議所・商工会等の経済団体や税理士・社会保険労務士等による企業の能力形成、②地域金融機関によるESG金融の本格化、③消費者への「ESD (持続可能な開発のための教育)」を通じた「持続可能な消費(CSRに熱心な企業からの購入を優先する消費とその姿勢)」の定着などがある。アカデミズムもこれらの研究を通じて中小企業へのCSRの普及に貢献することが求められるだろう。39中小企業支援研究 Vol.6

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