2019_RSS webbook
5/64

3中小企業支援研究 Vol.6このように21世紀の国際市場において価値の源泉はその商品・サービスに体化された知的資産であると言える。したがって、企業がいかに知的生産活動に注力しイノベーションを実現させるかがその産業の国際競争力に直結している。ところが、2010年以降にはイノベーションの内容が大きく変化している。つまり、2010年以降、多くの産業部門でこれまで蓄積された技術資源がイノベーション実現にほとんど役立たないような根本的な技術の大変革、破壊的イノベーションの時代に突入している。注1こうした大変革をもたらしたのは、AI(人工知能)や遺伝子解析のような本来サイエンスとして大学等での研究対象であったものが、産業界で技術として応用可能になったことによる。つまり、技術が限りなくサイエンスに接近してきているのである。例えば、AIは自動車の自動運転の実用化を可能にしているが、従来の自動車メーカーでは、こうしたAI技術の蓄積は皆無であった。また、これまで製薬企業では企業内に蓄積された百万種以上もの物質(化合物)のデータベースを活用することに新薬開発を実現させてきたが、こうした従来の新薬開発手法はゲノム創薬や再生医療薬品の開発には役立たない。このため破壊的イノベーションを実現するためには、企業は大学・高等研究所や研究型ベンチャーなどの外部の知的資源に依存せざるを得ない状況が生まれている。このように、学術部門に帰属するサイエンスと産業部門に帰属するテクノロジーとの融合が破壊的イノベーションを実現するために不可欠な状況にあるにも関わらず、近年我が国では、大学・研究所等の研究活動成果が停滞し、研究基盤の脆弱化が懸念されている。2.劣化する日本の研究基盤国際的な学術雑誌に収載された論文数は各国の学術水準の有力な尺度であるが、「我が国の論文数は10年前と比較して減少傾向を示しており、この現象は主要国では唯一である」(『科学技術白書2018年版』p.32)。また、論文の質を示す指標である被引用数Top10補正論文数では、2003-2005年平均では日本は米国、英国、ドイツに次いで4位であったが、2013-2015年平均では9位と大きく順位を下げている(図表2参照)。図表3 世界大学ランキング100位内大学数注:ランク入り大学数が同数の場合、順位合計数の少ない国を上位にした。出所:Times Higher Education World University Rankings 2018を基に作成 国別順位 100位内大学数 大学順位内訳1.米国 45 (3,3,5,6,7,9,10,以下省略)2.ドイツ 10 (34,41,45,62,79,82,88,92,94)3.英国 9 (1,2,16,27,36,54,76,80,91)4.オランダ 7 (59,63,64,67,68,72,83)5.オーストラリア 6 (32,48,61,65,80,85)6.香港 3 (40,44,58)7.スイス 3 (10,38,95)8.カナダ 3 (34,42,78)9.スウェーデン 3 (38,86,93)10.中国 2 (27,30)11.シンガポール 2 (23,52)12.日本 2 (46,74)13.韓国 2 (74,95)14.ベルギー 1 4715.フランス 1 7216.フィンランド 1 90注:分数カウント法を用いた。出所:『科学技術白書2018年度版』p.33図表2 国・地域別Top10%補正論文数の順位注1 : Clayton M. Christensen: The Innovation’s Dilemma 1997.(邦訳『イノベーションのジレンマ』2001年翔泳社)では、従来と全く異なる価値基準を市場にもたらし旧来製品を駆逐する技術革新を「破壊的イノベーション」と定義している。本稿ではこのクリステンセンの定義に加えて、既存の技術資源では対応できないような抜本的な技術革新を「破壊的イノベーション」と定義する。

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

page 5

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です