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本書は、佐竹恒彦氏が経営コンサルタントとして取り組んできた中小企業再生に関する研究成果をまとめたものである。佐竹氏は、行政機関や金融機関などからの要請に応じ、経営理念が曖昧かつ経営不振の中小企業における新事業展開や組織変革、再生などにかかわる計画策定の支援に携わってきた。しかし、当該企業経営者の実行意欲が乏しく、十分にリーダーシップが発揮されないまま、計画が実行・実現されない状況に直面していたことが、本書執筆の大きなきっかけであり、佐竹氏の問題意識となっている。一方、再生やリーダーシップ、経営理念、経営戦略(以下、戦略)、利益計画(以下、計画)などの研究領域では、当該企業の再生に有効な経営者のリーダーシップ開発法やリーダーシップを支える実際(真)の経営理念を早期に創成するための方法に関する議論が十分になされてこなかった。そこで、佐竹氏は当該企業が自力で再生を果たすために発揮される経営者の再生型リーダーシップの開発法についての研究に取り組むことになる。本書は、見せ掛けだけでない真の経営理念が早期かつ自然派生的に創成される過程から、再生型リーダーシップが開発されるメカニズムの追究を試みた独創的な著作となっている。本書の構成は以下のとおりである。まず序章において、問題提起と本書の目的、リサーチクエスチョンと研究方法、本書の構成と概要に触れ、第1章から第4章までが先行研究を精査した内容となっており、第5章では、仮説導出および理論的根拠による仮説の検証を行っている。第6章では、事例研究による仮説の検証結果説明および考察がなされ、終章において要約と新たな知見、本研究の含意、今後の研究課題といった内容を展開する。次いで佐竹氏が主張する理論が導かれたプロセス、論理展開の内容について、本書の構成に沿って以下に紹介する。序章では、中小企業再生研究の意義に触れるとともに、中小企業が減少し国家財政が悪化するなかで、補助金などによる中小企業支援策および中小企業再生領域における既存研究の限界と問題を提起している。また、中小企業の自力再生法を検討し、中小企業支援策の提言を行うという研究目的を示すとともに、これを達成するための研究課題の中心をなす学術的「問い」として、「中小企業再生に有効なリーダーシップとはどのようなものか」、「中小企業再生のための経営者のリーダーシップを支える経営理念とはどのようなものか」、「中小企業再生に有効な経営者の再生型リーダーシップを支える経営理念を早期に創成するには、どのような方法が有効か」という三つのリサーチクエスチョンと、これらを明らかにするための研究方法について解説している。第1章「中小企業の現状と企業再生研究における 課題」中小企業庁や財務省などの資料から中小企業の現状と中小企業再生研究の意義について指摘している。さらに、リーダーシップ、経営理念、戦略、計画との関係性に主眼が置かれている企業再生に関する代表的な先行研究をレビューし、経営理念が曖昧かつ経営資源の乏しい中小企業の再生に有効な経営者のリーダーシップの開発法とリーダーシップを支える経営理念を創成する方法に関する議論の必要性を主張している。第2章「リーダーシップ研究と中小企業の再生型リーダーシップ」第1のリサーチクエスチョンである「中小企業再56中小企業支援研究書 評佐竹恒彦著『再生型リーダーシップ論-経営不振の中小企業に有効な経営理念創成のプロセスモデル-』同文舘出版、2018年3月刊太田 三郎千葉商科大学商経学部 教授

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