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生に有効なリーダーシップとはどのようなものか」を明らかにする観点から、リーダーシップ研究の変遷、リーダーシップの概念定義と機能、リーダーシップを支える経営理念の重要性を指摘する先行研究を考察している。結果、経営者が中小企業再生のためのリーダーシップを存分に発揮するには、再生型のリーダーシップを支える明確な経営理念の存在が不可欠であることを主張するとともに、経営理念を創成する方法に関する根本的な観点からの検討が必要なことを課題として明らかにしている。第3章「経営理念研究と中小企業再生」第2のリサーチクエスチョンである「中小企業再生のための経営者のリーダーシップを支える経営理念とはどのようなものか」を検討するために、経営理念の源流と変遷、経営理念の概念定義と表現内容、経営理念の構造と機能、経営理念の企業業績との関連性および形成方法について既存研究を精査している。結果、経営理念形成後、企業業績が向上するには、多くの時間を要するなどの問題点があることを究明するとともに、短期的に利益を必要としている経営不振の中小企業が、早期に借り物ではない本物の経営理念を創成する方法を見出す必要性について指摘している。第4章「利益計画研究と中小企業再生」第3のリサーチクエスチョンである「中小企業再生に有効な経営者の再生型リーダーシップを支える経営理念を早期に創成するには、どのような方法が有効か」を明らかにする観点から、当該経営者のホンネや関心度が高いとされるカネを扱う計画や戦略と、タテマエとして捉えられがちな経営理念との関係性に主眼が置かれている計画策定に関する既存研究のレビューを行っている。既存研究の多くでは、「経営理念ありき」、すなわち経営理念から戦略を導き、そこから計画を策定する「理念→戦略→計画」型のプロセスが主流だが、そもそも明確な本物の経営理念を有しない当該企業に有効な方法に関する議論が進展していないという問題点を指摘している。第5章「仮説の展開」前章で指摘した問題点を踏まえ、さらに第3のリサーチクエスチョンに関する議論を進め、その解を導くための仮説を設定するとともに、仮説を裏付ける理論的根拠による検証を行っている。具体的には、既存研究における多くの主張とは異なる「『計画→戦略→理念』型によって再生型リーダーシップが開発される」とする佐竹氏の根幹ともいえる主張を検討するための三つの仮説が設定され、これをMaslow[1970]、Ackoff[1971]、Ackoff & Emery[1972]、Bass & Avolio [1995]、Koestemburm[2002]らの理論的根拠によって検証し、その可能性を示している。第6章「事例研究と仮説の検証」理論のトライアンギュレーションによる3社の事例分析から仮説検証がなされ、倒産の危機に直面している経営理念が曖昧な中小企業においては、「計画→戦略→理念」型の経営理念創成プロセスによって、再生型リーダーシップが開発される可能性を裏付ける内容が示されている。終章では、本書の要約と結論、本研究の含意として、企業再生、リーダーシップ、経営理念、管理会計などの研究領域における学術的貢献や中小企業経営における実務的貢献などの意義、今後の研究課題に触れ、最後を締めくくっている。以上、本書の構成に沿って、佐竹氏が主張する理論が導かれた経緯や論理展開などを概説してきたが、ここでは、本書の特徴を示すと以下の通りとなる。まず、研究対象の独自性が挙げられる。これまであまり議論されてこなかった、明確な著者流の「真」の経営理念を有しない経営不振の中小企業の再生に焦点をあてたことである。次いで当該企業経営者の再生型リーダーシップ開発法を著者が唱える「真」の経営理念が創成される過程から見出そうとしている点が特筆に値する。多くの既存研究で提唱されている「理念→戦略→計画」型のプロセスとは異なり、倒産の危機に直面した当該経営者の動機付けの観点から、「計画→戦略→理念」型の経営理念創成プロセスによって、経営者の再生型リーダーシップが開発されるメカニズムの可能性について体系的に解明を試みたことが本書における最大の特徴であり、学術と実務の両面から有用な示唆を提供した良書といえる。57中小企業支援研究 Vol.6

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