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5中小企業支援研究 Vol.6されるように変更された。このため教員定数を確保する必要から大学院院生の定員が大幅に増やされた。この増加した院生定数を確保するため従来の入学基準を緩和せざるを得ず、入学者の学力が低下したとの指摘も少なくない。さらに、より深刻な問題は、大学院教育の拡充策にも関わらず、博士課程への進学者数が長期間減少していることである(図表6参照)。博士課程への進学者が平成15(2003)年度以降ほぼ一貫して低下し、2017年度には2003年度比46.1%減と半分近くにまで減少している。こうした二要因によって我が国の研究基盤が劣化し、2010年以降の論文採択数国際順位の低下等の研究活動水準の停滞につながっているのかもしれない。では、なぜ博士課程進学者数は減少を続けているのであろう。その最大の理由は、博士課程修了者の主要な就職先である大学や高等研究機関の正規雇用枠が21世紀以降ますます狭まり、その新規雇用の大部分が任期付となるなど雇用条件が悪化していることによって博士課程に進学しても将来展望が開けないことにある。大学教員や研究機関研究職員の身分が不安定になった要因の第一は、2007年度から実施されて大学教員の職制の変更である。それまで大学教員は助手➡専任講師➡助教授➡教授というように昇格し、一部の助手以外はその無期限の雇用が保障されていた。ところが2007年度に導入され新たな職制では、助手と専任講師とが「助教」として統合され全て任期付(通常は3年程度)の身分となった(助教授は「准教授」と名称の変更だけであった)。こうした職制の変更は国立大学にとどまらず、文科省の指導もありほとんどの公立・私立大学でも実施された。任期付教員制度の導入は、大学教員等の研究人材の流動性を高め、研究活動へのインセンティブを高めることを目的とするもので、研究活動成果の高い米国の任用制度の模倣ともいえよう。米国では、大学に限らず産業界全般で労働市場が流動的であり、民間企業部門と研究部門との人材交流も活発である。したがって、米国では大学教員であれ企業内研究者であれ、雇用リスクは等しいといえる。また、シリコンバレーなどのハイテク企業の集積地域内では、専門分野を同じくする技術者・研究者によって濃密な情報ネットワークが形成されており、このネットワークを通じて再就職先を斡旋されるなど、雇用リスクを軽減する制度が確立している。実際、シリコンバレーでは研究・技術者の採用数の過半は従業員の紹介によるものであり、紹介された技術者が試用期間を終了し正規雇用されると、紹介した従業員には「紹介ボーナス(referral bonus)」が支給されている。ところが、長期安定雇用が経済制度として定着している我が国では、組織の壁を越えて研究者同士が緊密に情報を交換するネットワークは形成されていない。つまり、我が国では雇用リスクを軽減するた図表6 修士課程修了者と博士課程進学者数の推移資料:文部科学省「学校基本調査報告書」を基に文部科学省作成出所:『科学技術白書2018』p.45

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