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7中小企業支援研究 Vol.6発スタイルは、破壊的イノベーションを伴う技術分野には有効性は著しく低いものである。こうした状況に直面した日本企業の中には、数千億円以上もの巨額の費用を投じて海外の先端技術保有企業を買収するケースも少なくない。しかし、こうした巨額資金を海外企業買収に投じるよりも、研究成果が得られるまでに時間が掛かるとしても、国内の大学・研究機関との共同開発に研究資金を投じる方が当該企業のみならず日本の研究基盤の強化に資するのではなかろうか。実際、我が国の研究人材は、依然として豊富な研究資金が利用可能になれば、世界水準の研究成果を達成しうる潜在能力を保持していると考えられる。破壊的イノベーションによって大企業が社内に蓄積している膨大な技術資源の有用性が低下していることは、この技術分野では、ニューベンチャーや技術開発志向型中小企業にとって新たなビジネスチャンスを拓くことを意味する。Preferred Networks (PEN)社は、破壊的イノベーションの典型である人工知能(AI)の一種である深層学習(Deep Learning)による制御技術を研究開発するために、2014年に設立されたニューベンチャーである。同社の西川徹CEOは同社は「最先端の技術を継続的に生み出し、実用化する組織」の確立を目指すとし、研究人材の最上位に位置する専任のResearcherの応募条件を博士号取得者に限定している。また、同社の技術顧問にはPieter Abbeei UC Berkeley教授および五十嵐健夫東京大学大学院情報理工学研究科教授を迎えている(PEN社ホームページ)。こうした最先端技術開発への研究体制とその研究実績は高く評価されており、著名研究機関との共同研究プロジェクトを実施している。また、多くの大企業が巨額の出資を行っており、日本経済新聞社の調査では、推定企業価値は2,326億円と評価されている。PEN社は、破壊的イノベーション時代における、研究開発型ベンチャーのあるべきモデルを顕示しているといえよう。これまで、日本政府の中小・ベンチャー企業に対する技術開発支援政策は、技術開発に必要なハードウェア(設備・機器)購入資金補助に重点がおかれてきた。しかしながら、破壊的イノベーションに挑戦するためには、当該技術分野における高度技術人材の確保が決定的に重要である。しかし、中小企業で一般的な給与水準では高度技術人材を採用することはほとんど不可能といえる。したがって、今後の中小企業技術開発支援政策は、例えば、技術開発のキーになる高度技術人材を高給(年俸1000万円以上)で雇用する際にはその人件費の一部を一定期間助成するような人的資源投資支援へと転換する必要がある。図表7 博士号取得者採用企業数の割合(%)201517.116.514.611.010.810.09.38.16.55.85.14.63.110 50オーストラリア(2011)ノルウェー(2012)アイルランド(2011)ベルギー(2011)ロシア(2013)米国(2010)ハンガリー(2012)シンガポール(2012)イタリア(2012)台湾(2013)トルコ(2013)日本(2016)ポルトガル(2012)資料: 日本は総務省『科学技術研究調査』、米国は“NSF, SESTAT”、その他の国は“OECD Science,Technology,and R&D Statistics”のデータを基に文部科学省作成出所:『ものづくり白書2017』p.220

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