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事例報告枝村 圭一郎千葉商科大学経済研究所客員研究員中小企業診断士同族企業のコーポレート・ガバナンスに関する考察~同族系上場・非上場企業の破綻事例を通じて~Ⅰ.はじめに 昨今、企業経営において「コーポレート・ガバナンス」という言葉は聞かない日がないくらいに浸透し、コンプライアンスと合わせて遵守の徹底が叫ばれている。上場企業では、上場する際に社内のガバナンスが有効に機能する仕組みを担保しないと、上場審査を通過できない。また永年上場している企業においても、2003年(平15)の金融商品取引法、開示府令改正における「提出会社の情報」のなかで、「コーポレート・ガバナンスの状況」という項目が設けられたことから、社内のガバナンスの機関設計と取組強化状況を開示しなくてはならないルールとなっている。 しかしながら、依然として上場企業においてもコーポレート・ガバナンスの欠如による不祥事が起き、その影響で経営破綻に陥るケースも発生している。また非上場企業では、株式の所有と経営の一体化により構造的なガバナンスの欠陥が散見され、オーナー兼社長(同族)による独善かつ独断の経営行動におけるモラル・ハザードの問題を有して、毎年数多くの非上場企業が破綻に追い込まれている現況がある。 筆者は中小企業診断士を取得する傍ら、複数の金融機関(地銀・証券・都銀)に約25年勤務して、上場企業から中堅・中小企業、個人事業主まで様々な規模、業種の経営者や経営陣(経営幹部)をみてきた経験や、自身がベンチャー企業を設立して株式上場を目指し、社内にてマネジメントをした際のガバナンスの難しさも実感したもの、加えて現在経営コンサルタントとして中堅・中小企業の経営を診ている立場として、実効性のある真のコーポレート・ガバナンスを確立する為には、上場・非上場を問わず何が重要かを、破綻前から内容を十分把握していた2つの同族企業の破綻事例を通じて論じてみる。Ⅱ.研究事例に入る前に1.同族企業で業績伸長しているケースも多数ある 日本の企業に同族企業は多く、上場・非上場を問わず業績良好な企業は多数ある。上場企業では、京セラ社や日本電産社などを代表例として枚挙にいとまがない。なお、筆者がみた同族系で業績が好調な企業には以下の3つの特徴がある。①オーナー(代表者)の強いリーダーシップと経営判断の速さ②番頭の存在(オーナー家と親族関係に無い番頭で、特に営業(現場)部門と管理部門の双方に番頭がいる企業は強い)③オーナー(代表者)のバランス感覚と嗅覚(ヒトの話を素直に聞ける度量があるかどうか) 以上により、同族系企業全てを否定している訳で44中小企業支援研究

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