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きくうかがわせる対照的な出来事である。 タカタ社の経営トップである高田重久社長は、全体をコントロールする為のオールラウンドな経営行動ができない人物であったといえる。また、タカタ社は取締役6名中1名が社外取締役(独立取締役)、社外監査役2名は弁護士と公認会計士であり、外形上からみれば「コーポレート・ガバナンスの状況」を充たしているが、破綻に至るまでの過程でコーポレート・ガバナンスが有効に機能しているとは思えず、あまりにもお粗末である。筆者の私見では、社外も含め全取締役、全監査役が善管注意義務違反、重過失であり、株主代表訴訟でもあれば敗訴する懸念すらあるものと考える。3.タカタ社破綻からの教訓 株式上場して、態勢的にはコーポレート・ガバナンスを表面上では確立していても、「魂」が入っていなければ全く無意味であることが、タカタ社の破綻事例から判明した。特に、創業家の経営トップに対して牽制する存在の確保が、いかに重要であるかがわかる。牽制する存在は、独立社外取締役や社外監査役のみならず、取引銀行(デッドガバナンス)、仕入先や販売先、広く世論まで含めた包括的な牽制機能を認識して確立し、かつ継続していく努力が必要であると考える。Ⅳ.林原社(非上場)の破綻事例1.林原社の概要と破綻の内容について 林原社は非上場企業とはいえ、地方で異彩を放っていた名門企業であった。林原社は地域のトップバンクである中国銀行(第一地銀・本社:岡山県岡山市)の筆頭株主であり、また世界の大手医薬品メーカーが新製品開発競争で凌ぎを削るなか、地方の一企業がガンの特効薬である「インターフェロン」の製造を確立する等、世界に通用する日本の非上場企業の代表格といったユニークな存在であった 粉飾決算発覚により、メインバンク(中国銀行)、準メイン(住友信託銀行・現在の三井住友信託銀行)の態度硬化とバンクミーティング対応の不手際等により、会社更生法申請により破綻となった。すなわち、債務超過と裁判所で認定されたわけだが、その後の債権者宛の弁済率は驚くべきことに93%台と極めて高いレベルであった。何故なら、上場していても相応の借入規模のある企業が、急遽取引銀行に経常運転資金の借入や長期の折返し資金を止められてしまうと、資産超過の企業でも破綻してしまう。その際に資産超過の上場企業であっても、弁済率が90%を超えることは極めて稀といえるだろう。上場企業で会社更生法を申請する企業は、だいたい3期以上の連続実質営業赤字や多額の特別損失を計上したケースが多く、過剰債務の背景から一旦リセット(過剰債務を大幅カットすれば事業存続は可能)する為に活用することが多い。その際の弁済率は10%前後であり、その10%ですら20年かけての分割返済といったものになっているのが実態である。林原社の経営者(林原健社長・林原靖専務)の著書からも再認識できたが、破綻に伴う火事場泥棒的に林原社の資産が投げ売り(バルクセール)されたが、平常の一般取引レベルでの任意売却であれば、弁済率が100%を超えた可能性もあったことが容易に推察できる。 以上により、林原社は本来潰れる必要のない企業であった。図表3 林原社の創業から破綻に至るまでの時系列資料47中小企業支援研究 Vol.8

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