中小企業支援研究vol5
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中小企業支援研究 別冊 Vol.524加価値生産性が抑制されているからである  。 第2に、中小企業、特に小零細企業の雇用創出力は高く、90年代以降雇用の削減が進められる中、それを少しでも押しとどめる役割を果たしてきたことである。 ある期間における雇用の増減は、その間存続してきた企業による雇用拡大と削減の差し引き及びその間における企業の創業と廃業による雇用創出と消失の差し引きで決まる。 『中小企業白書2002年版』によると、1986年→2000年において、存続していた事業所(製造業)全体では雇用削減が拡大を上回り、116万人の雇用純減だったが、最小規模の従業者4~20人の事業所のみは15万人の雇用純増だった。この層ではこの期間に事業廃業による雇用消失が事業新設による雇用創出を大きく上回り、これを合わせると雇用純減だったが、存続事業所が雇用増加機能を発揮したことに注目すべきである。 『中小企業白書2005年版』によると、1999年→2001年において、存続していた事業所(非一次産業)全体では24万人の雇用純減だったが、従業者1~20人では116万人の雇用純増だった。また、この期間に事業の創・廃業を通じ33万人の雇用純増となったが、その中心は小零細事業所層と思われる。 『平成25年版労働経済の分析』(厚生労働省)によると、2008年→2011年では、毎年、事業所(非一次産業)全体では雇用は純減してきたが、最小規模の従業者5~29人だけは2011年に純増した。その主要因はこの層での事業廃止による雇用消失が減り、新設事業所による雇用創出が上回ったためだった。 以上のように経済停滞で雇用が削減される中、常にというわけではないが、小零細企業は雇用増加機能を発揮している。その理由は、小零細企業は若い企業が多く、事業拡張力があること、創業は小零細企業が中心であることである。小零細企業の雇用創出力は、経済停滞下でも雇用を支え、社会を安定させる役割を果たしている。 経済停滞下で明らかになった中小企業の産業の高加工度化と雇用創出の担い手という役割は、地域の発展と安定をもたらす。中小企業家同友会など、それを中小企業の使命と自覚する中小企業経営者も現れ、中小企業こそが経済、社会の主人公だとする「中小企業憲章」、中小企業の振興は地方自治体の首長の責務とする「中小企業振興基本条例」の制定を推進し、中小企業政策の改革も進めた。このような中小企業が基礎自治体と連携し、国の施策も活用しながら市場自立化に向かう。彼らは大企業と対等に取引できる地域における「小さな中核企業」群として、取引のある他の地域中小企業をまきこみながら地域経済再生の担い手となる。そのような地域の全国化により日本経済も復活する。 中小企業に期待されるのは産業・経済面だけではない。中小企業には人々があまり気づいていない重要な社会的な役割もある(黒瀬[2015])。 その第1は、中小企業は経済力が多数の主体に分散する経済民主主義の担い手ということである。封建社会は身分的な支配・従属関係に立つ共同体を核とするが、それを解体しつつ生まれた市場経済は、労働力を含むあらゆるものを商品化するという問題性を孕みながらも、商品の所有者としては人間は皆対等という関係を創り出した。だが、自由な競争を原理としていた市場経済は、経済力が少数の巨大企業に集中する大企業体制を生み出し、巨大企業の経営計画が市場を強くコントロールし(北原[1984])、取引関係においては巨大企業の優越性が貫かれる  という反対物に転化してしまった。これに対抗し、市場経済の歴史的進歩性を活かすには、市場自立的な中小企業を増やすしかない。経済民主主義がなければ社会や政治における真の民主主義も実現しない。中小企業は民主主義という社会的価値の担い手なのである。 第2は、市場経済があらゆるものを商品化し、貨幣的動機が人々の行動を支配する中、中小企業が取引や労働を人間化する機能を持っていることである。市場経済では経営者は「資本の人格化」として利潤追求を強制されるが、社会の一員としての自然人の本性を失ったわけではない。経営者には自然人と「資本の人格化」という二重性があり、それゆえ利潤追求に縛られながらも、自然人の本性に基づく「人間尊重」という経営理念も持ちうる。特に中小企業経営者については、大企業経営者に比べ個人としての思いを貫き易いため、「人間尊重」経営を実践している経営者がしばしばみられる。 まず、中小企業特有の個々の顧客と直接顔を合わせる関係を基に、貨幣的動機だけでなく、人への役立ちの喜びを経営推進の原動力にしている中小企業がある。「顧客の喜びをわが喜びとする」というように顧客との間に一種の精神的共同性を構築し、貨幣的動機が支配する市場取引を「人間化」している。 次に、労働者の労働に主体性を持たせ、自己実現可能な労働にし、労働を「人間化」している。大企業にくらべ経営幹部と労働者の間でフェース・トゥ・

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