View & Vision No42
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22特 集大学のマーケティング力で市場をつくる ―産学連携による商品開発―42ためのケアを包括的な体制から提供する」ことであり、地域における包括的ケア体制が整備されている状況とは、『生活における不安や危険に対して、住居の種別を問わず、サービスや対応が提供される状況』と言え、原則として安全・安心・健康を確保するサービスが当該利用者の状況に合わせて24時間365日連続して提供されることが理想とされている。 従って、このような多様な生活問題に対応するサービスが、地域内の様々な社会資源の組み合わせや、これらを複合的に組み合わせたシステムの利用によって、サービスが連続して提供されることを目指したシステムを「地域包括ケアシステム」と定義される。 このシフトを促すために多くの先進国で昨今、採られている手法が、ケアサービスの連続性と統合を向上させ、その重要なプロセスとして、ケアの質・アクセス・効率性を改善するための「統合ケア(integrated care)」である。日本は、このシフトを地域圏域という、地区町村が介護保険事業計画において設定した行政単位内で構築していこうという国際的にも稀な試行を始めたといえる2。 改めて、市区町村は現在策定中の第六期介護保険事業計画・高齢者福祉計画の中で、地域内の医療、介護、生活支援の機能を「統合ケアシステム」として、介護保険制度による安心と安全を保証し、さらに付随する新たな高齢者生活サポートの仕組みを自治体の責任として構築すべく、産学官民が連携して議論を進めていく必要がある。 そうした背景の中で、産学連携による商品開発を“ソーシャルビジネス”の切り口で本学が実践することの意味は大きいと考える。 「地域包括ケアシステム」とは、「国際的にもその実現が困難とされる“community-based integrated care system”を構築しようとする試み」と表現されるように3他国にそのモデルに相当するシステムはなく、我が国(各自治体)が実践的トライアルを行っているところである。従って地域包括ケアシステムの実践フィールドに求められる人材に不可欠な資質は、従来の学習形態である“過去からの学び”主体ではなく、先に述べたように環境の変化に対処できる能力(competence)と考える。 「地域を基盤とする統合ケア」という視点について、地域包括ケア研究会のメンバーである堀田聰子氏は「地域包括ケアの推進を図るには、一人ひとりがどのように生き、どのように死んでいきたいのか、よりよく生きるために何ができるか、それはどのようなまちにおいて実現できるのか、『当事者として』考え、語り合うことが出発点となる。『高齢者の』『利用者の』『患者の』ケアの改善を手掛かりにしながらも、目標は『すべての住民』が『よりよい生活の中での経験』を『ともに創りだして』いけるまちづくり、地域としての『物語』(Narrative)を紡ぐことであることを、基本方針とともに地域において十分に共有していくことが不可欠である」と述べている4。大事なことは、地域の中で地域住民が協働するという文化を創り出すことであり、そのためには、地域の中で、大学は必要とされる人材を輩出し、地域に対し、新たなケアビジョンを発信する役割を担うべきと考える。大学教員、学生、行政担当者、民間事業者が、「地域づくりの協働者」としての“ものの考え方・処理の仕方”に意識転換を図る必要がある。 地域包括ケアシステムとは、一言で表現するならば“ネットワーク”だ。スマホ文化、ICT、IoTに代表される情報革命が我々の社会生活に大きなプラスの効果を及ぼしてくれるのは間違いない。ただし、地域活性化を考えたとき、“地域”が勝手に活性化することなどあり得ない。地域包括的な地域の活性化に必要なことは、“地域住民が本気になる”ことである。 地域住民が“本気”になって、地域活性化に向けたビジョンメイキングを進めるには、当然のことながら情報の共有化が大前提となる。では「地域づくりの協働者」としての“情報共有”は現在どのようなプロセ2 筒井孝子(2014)『地域包括ケアシステム構築のためのマネジメント戦略』33頁3 筒井孝子・東野定律「地域包括ケアシステムにおける保険者機能を評価するための尺度の開発」国立保健医療科学院「保健医療科学」2012年4 堀田聰子「オランダの地域包括ケア─ケア提供体制の充実と担い手確保に向けて─」労働政策研究報告書№167・2014年5月30日地域活性化における大学の役割6地域包括ケアシステム構築におけるマーケティング7

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